計画研究
RBCS過剰発現イネでは、昨年度までの結果で、Rubiscoの過剰生産は現在のCO2レベルでの光合成機能の改善効果は小さく、バイオマスの増産も明確ではなかった。本年度は、Rubiscoの光合成における律速性が高まる低CO2分圧(28 Pa)と高CO2分圧(120 Pa)でRBCS過剰生産イネを栽培した。標準CO2条件(40Pa)下でも、Rubisco過剰生産イネのバイオマスの向上が若干認められ、その効果は低CO2条件で促進されていた。このことは、Rubiscoの律速性の高まる環境上限ではRubiscoタンパク質の増強はバイオマス増産に効果があることを示した。一方、高CO2条件ではバイオマス増産の効果はなかった。低CO2下ではRBCS過剰発現イネのRubisco量増加に顕著な効果が認められた。対照的にChl量に大きな変化がないことから、RBCS過剰発現は、より低CO2環境に積極的に応答していると判断された。窒素吸収量について調べたところ、結果は概ねバイオマス量と同じ結果を示した。このことは、Rubiscoが過剰生産されることで、植物の窒素要求量も増えていることを示している。デンプン合成の鍵酵素、葉身プラスチッド型AGPase(OsAPL1)の欠損イネ(Tos17挿入系統)に対して、光合成機能とバイオマス生産量を調べた。APL1欠損イネ(-/-)の生育は、大気CO2条件(自然光ガラス室)で対象系統(+/+)や野生型イネ(日本晴)と同等のバイオマス生産を示した。しかしながら、葉面積当たりの光合成速度は、20から100 PaのCO2濃度でAPL1において低かった。また、葉面積当たりの光合成は低CO2より80Pa CO2領域まで差がなかったが、120 Paで有意に低く、葉身デンプン合成能力の欠損におけるPi再生産律速による光合成抑制が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、RBS過剰生産イネに対して、標準CO2条件(40Pa)栽培に加えて、Rubiscoの光合成における律速性が高まる低CO2分圧(28 Pa)とRubiscoの律速性のない高CO2分圧(120 Pa)でRBCS過剰生産イネを栽培した。結果では、低CO2分圧のみならず、標準CO2条件(40Pa)下でも、Rubisco過剰生産イネのバイオマスの向上が若干認められ、その効果は低CO2条件で促進されていた。このことは、Rubiscoの律速性の高まる環境上限ではRubiscoタンパク質の増強はバイオマス増産に効果があることを示した。一方、高CO2条件ではバイオマス増産の効果はなかった。これらの結果は、ある意味では、予め想定された結果ではあった。したがって、問題は、標準条件でのさらなるバイオマスの増強である。また、デンプン合成の鍵酵素、葉身プラスチッド型AGPase(OsAPL1)の欠損イネの生育が高CO2で良くないことも考えられる結果であった。
RBCS過剰発現イネで、Rubisco量が実際に増加した個体では、必ず部分的なRubiscoの不活性化を伴っていた。その問題を解消できれば、さらなる光合成やバイオマス生産向上が期待されたが、結果はそうではなかった。Rubisco増強イネにおけるRubiscoの部分的な不活性化は、RuBP再生産にかかわる他の光合成の律速要因とのアンバランスのため生じるものであると考えられるため、今後は、RuBP再生産にかかわる候補の増強が必要であり、現在はRubisco activaseの増強、電子伝達系シトクロームb6f複合体の増強、およびカルビン回路酵素SBPaseとTransketolaseの増強に着手し、Rubisco増強イネとのそれらの変異体の交配育種を考えている。
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