FGFシグナルは、マウス原腸胚形成及び左右軸形成において必須の役割を果たすことが、変異マウスの解析から明らかにされてきた。しかし、変異マウスの解析では、得られた表現型がどの時期のFGFシグナルの欠損によるものかは不明であった。そこで、FGFシグナルの阻害因子を添加した全胚培養によって、時間軸に沿ったFGFシグナルの機能解析を行い、以下の結果を得た。1)FGFの受容に必要なヘパラン硫酸の生合成を阻害するsodium chlorateもしくはFGFR阻害剤PD173074は、FGFシグナルの変異マウスと類似の表現型を生み出すが、FGFR阻害剤SU5402は同様の効果を示さない。2)原条形成直前のFGFシグナル阻害は、上皮間葉転換の異常をもたらし、原条形成後は中胚葉パターニングの異常のみをもたらす。3)原腸胚形成期においては、FGFシグナルは持続的にTbx6の発現を誘導し、ノードを取り囲む様にしてNotchリガンドD111の発現を誘導する。D111はノード辺縁におけるNoda1発現の誘導に必要であり、ノードのNoda1は側板中胚葉における左右軸の確立に働く。従って、FGF8変異マウスに見られる左右軸の異常は、FGF-Tb6-D111カスケードが働かないために生じるものと推察された。FGFシグナルのみならず、受精卵から原腸胚形成にいたる発生過程では多数のシグナル経路が空間的、時間的に厳密に制御される必要がある。細胞内シグナル伝達における不活性化を担う機構として細胞内分解コンパートメントに着目した。蔵側内胚葉に特徴的なエンドサイトーシスがミクロオートファジーによることを明らかにした。また、エンドサイトーシスに欠損をもつ遺伝子改変マウス胚ではBMPシグナルの負の制御が欠損すること、原腸胚のパターニングの異常を示すことを明らかにした。
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