細胞膜形状の定量化は、細胞核の同定による細胞位置の定量化と同じく重要である。空間3D時間1Dの細胞膜の解析手法開発のプロトタイプとして、ショウジョウバエの細胞内極性形成データを用いて空間2D+時間1Dにおける細胞膜追跡の画像解析方法を構築した。具体的には、各種空間フィルタリング・モーフォロジー処理などを時間的に個別の画像に適用し、大まかな細胞膜の形状を推定した。タイムラプス画像のS/Nの低さから自動推定された結果は多くのエラーを含む。手動によるエラー訂正を自動の画像解析に組み合わせる方法を開発し、全体として高い精度を実現した。 膜の解析法開発と並行して、細胞運動追跡を行う手法の蘭発を細胞同定が容易なチック胚発生のデータを用いて行った。空間2D時間1Dのデータを空間3Dの画像であるとみなして連結領域を追跡することにより、細胞の形状の変化も考慮したトラッキング手法を検討した。細胞接触などが頻繁に起こらない場合には非常に良い結果が得られたが、接触が頻繁に起こる場合、接触細胞のIDを客観的に決定することが難しくさらなる拡張が必要であることが明らかになった。 細胞や細胞内分子などの粒子が示す空間的な運動を扱う空間統計的なデータ解析手法を開発した。非常にランダムに振る舞う細胞内極性形成に関わる小胞の移動方向と移動距離の統計的パターンを解析し、非対称局在をする分子に関わる小胞の移動方向に偏りがあることが示唆された。さらに野生型と変異型の差異の有意性を解析するための方法として、リサンプリングによる解析を行いその有効性を検討した。 また、3次元空間内での分子・細胞の配置やその確率的ダイナミクスをデータ解析するための手法として、KL距離による確率的ダイナミクスの定量化とPCAを組み合わせた手法の開発も行った。
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