研究概要 |
我々は既に、脂肪細胞に由来する飽和脂肪酸がTLR4の内在性リガンドとしてマクロファージを活性化することを証明し、メタボリックシンドロームの病態形成に関与することを見出した。本研究では、マクロファージにおける飽和脂肪酸の標的分子としてATF3を同定し、ATF3が肥満の脂肪組織に浸潤するマクロファージに高発現することを証明した。培養マクロファージを用いた検討により、ATF3は飽和脂肪酸/TLR4/NF-□B経路の負の制御因子として作用することが明らかになった。実際、マクロファージ特異的にATF3を過剰発現するトランスジェニックマウスを作製したところ、肥満に伴うマクロファージの活性化が減弱しており、ATF3が慢性炎症を基盤とするメタボリックシンドロームの新しい創薬ターゲットとなる可能性が示唆された。更に、酵母two hybrid法により、ATF3と蛋白-蛋白相互作用する分子をスクリーニングし、既に報告されているATF4を含む機能分子の同定に成功した。 動脈硬化の病態生理における自然炎症の役割を検討した。頸動脈や冠動脈の動脈硬化内膜摘出標本を免疫染色で検討したところ、プラークではTLR4、HMGB-1の発現が亢進していた。冠動脈疾患患者の心臓周囲脂肪組織ではCD68陽性マクロファージ、CD8陽性T細胞の浸潤が増加していた。RT-PCR法により、TLR1, 2, 5, MyD88の発現が亢進していた。皮下脂肪組織では冠動脈疾患患者と非冠動脈患者で差はなかった。急性冠症候群患者では血漿中のHMGB-1濃度が亢進していた。冠状静脈洞の血液を検討すると、HMGB-1は不安定狭心症患者において冠循環中に産生されていると考えられた。以上より、TLRなどの病原体センサーとHMGB-1などの内因性リガンドとの相互作用が、動脈硬化の進展と破綻に関与していることが示唆された。
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