研究領域 | 内因性リガンドによって誘導される「自然炎症」の分子基盤とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
21117007
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
小川 佳宏 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (70291424)
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研究分担者 |
佐田 政隆 徳島大学, 大学院・ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (80345214)
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キーワード | 飽和脂肪酸 / TLR4 / Mincle / 肥満 / 動脈硬化 / HMGB-1 / マクロファージ / ATF3 |
研究概要 |
●メタボリックシンドロームにおける病原体センサーの病態生理的意義に関する検討(小川) 1)転写抑制因子ATF3による炎症抑制機構に関する検討;酵母two hybrid法を用いて、マクロファージにおけるATF3の結合蛋白としてATF4を同定した。培養マクロファージにおいて、ATF4は飽和脂肪酸により誘導され、TLR4欠損マクロファージにおいてもほぼ同程度の発現誘導が認められた。ATF4をノックダウンすることにより、飽和脂肪酸による炎症性サイトカイン発現誘導は有意に抑制され、飽和脂肪酸により誘導される慢性炎症においてATF4の意義が示唆された。 2)メタボリックシンドロームにおけるMincleの病態生理的意義に関する検討;昨年度、肥満マウスや肥満症例の脂肪組織マクロファージに新しい病原体センサーMincleが高発現することを明らかにした。Mincle欠損マウスに高脂肪食を負荷し、1年後まで観察したところ、野生型マウスと比較して脂肪組織重量が増加する一方、肝重量の増加が有意に抑制された。Mincle欠損マウスは、高脂肪食負荷による糖代謝異常も軽減しており、肥満におけるMincleの病態生理的意義が示唆された。 ●動脈硬化性疾患における病原体センサーの病態生理的意義に関する検討(佐田) 非冠動脈疾患と比較して、冠疾患症例では、心臓周囲脂肪組織にマクロファージ浸潤が増加しており、その極性が相対的にM1側へシフトしていた。また、冠動脈疾患症例では、炎症性サイトカインやTLRの発現が亢進しており、自然免疫が冠動脈疾患の病態形成に関与することが示唆された。 冠動脈疾患症例の冠状静脈洞採血において、HMGB1の濃度が亢進していた意義を明らかにするため、遺伝子欠損マウスと骨髄移植を用いた実験を行った。血管傷害後に血中のHMGB1濃度が亢進すること、HMGB1-DNA複合体がマクロファージのTLR9を介して病的炎症を惹起することより、 HMGB1-DNA複合体が動脈硬化の病態に関与することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子操作マウスを用いた検討により、新しい病原体センサーMincleの生活習慣病における病態生理的意義が明らかになった。飽和脂肪酸-TLR4経路の新しい調節因子としてATF4を同定し、培養マクロファージにおける意義を明らかにした。ハエ、マウスで同定された自然炎症の経路がヒトの動脈硬化性疾患においても重要であることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子操作マウスを用いて、新しい病原体センサーMincleの機能的意義や作用機構、内因性リガンドの同定に関する検討を推進する。飽和脂肪酸-ATF4経路の調節因子として同定したATF4の遺伝子操作マウスを用いて、生活習慣病における病態生理的意義を検討する。冠動脈疾患症例のデータベースとサンプル(脂肪組織、血清、頸動脈硬化病変)のストックが完備されたので、今後領域内で同定された新規の遺伝子の発現が病的条件下においてどのようになっているかを迅速に評価することができる。また、領域内で開発された遺伝子改変マウスを用いて、心血管疾患の病態モデルにおいて迅速に評価する。
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