我々のグループの担当は、がん転移においてTLR4の内因性リガンドS100A8およびSAA3が、生体内で文字通り内因性リガンドとして機能している様式を解明することを目的とする。TLR4はこれまで外来性であるエンドトキシン(LPS)の受容体として理解されてきたため、第一に実験に使用する内因性リガンドがその調整過程でLPSを誤って含有することを除外することから開始した。厳密にこれを施行するため、微生物ではなく哺乳類細胞で発現させ精製したもの、合成ペプチドにように化学合成したものを使用した。マウス個体おける反応性や細胞運動などの生物学的事象を惹起できることを確認した。第二に、転移臓器である肺におけるこれら内因性リガンドの発現ネットワークの詳細を解明した。SAA3は肺特異的クララ細胞で発現の自己増幅を起こしているだけでなく、肺臓器内のマクロファージ、血管内皮細胞、クララ細胞以外の肺胞上皮細胞にも作用し、それぞれ特定の増殖因子やケモカインの発現を誘導した。このクロストークによって転移土壌が形成されることを明らかにした。明らかにしたネットワークの様式は、LPSを投与したとき、すなわち外来性に微生物が経気道性に襲来したときと類似の刺激でも、同様の様式を呈した。すなわち、肺炎とならないように間断ない微生物の襲来を防御している肺ホメオスターシスの破綻が転移土壌の形成に寄与していることが強く示唆された。第三に、癌だけでなく白血病細胞の骨髄からの動員モデル系としてTLR4を発現する骨髄系細胞の白血病モデルBCR-ABLの研究、第四に、DNAやRNAに結合し、そのホメオスターシスに関与する分子で自己免疫疾患の抗原としても知られるC1Dの研究、これら大きく関連する内容も今後検討すべき課題として成果を発表した。
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