研究概要 |
まず、成人と乳児のアンドロイド・ロボット・ヒトの見かけによる認知様式を比較するため、乳児(5カ月から6カ月)を対象とした脳波計測実験を実施した。我々がこれまでに行った成人を対象とした実験では、同じ動作でも、見かけによってmu-suppressionの度合いが異なることが明らかになっており、今年度はこれと同じ効果が乳児でも観られるかどうかを検証した。現在データ解析中ではあるが、同じ動作をするエージェントの刺激に対して、乳児の場合も見かけの影響を示唆する結果が得られそうである。 また、ヒトは生物と非生物を見分けられると考えられている。このような生物らしさの知覚はアニマシー知覚と呼ばれている。アニマシー知覚は我々の社会的認知の基礎となっていると考えられるため、近年、注目を集めている。しかし,アニマシー知覚は生物と非生物とを見分ける能力であるにも関わらず、実物の生物を用いたアニマシー知覚の検討は行われてこなかった。そこで,アニマシー知覚に関する脳内過程を明らかにするために,実際の生物とロボットを用いて脳波による事象関連電位を計測した。その結果、アニマシー知覚には二つの独立した脳内過程が含まれることが示唆できた。具体的には、対象を主観的に生物とみなすこと(主観的なアニマシーの帰属)に関連した左前頭下部の活動と、運動の特徴からアニマシーを知覚することに関連した右側頭部の活動の二つである。 さらに、乳児における物体学習の特徴をエージェントの違いから分析した。すなわち、ヒトとロボットからの学習が質的に異なることを示した。まず、ヒト条件群では、ヒトが2つの物体のうち一方に視線を向ける。ロボット条件群では、ロボットがヒト・エージェントと同様の行為を行う。このときに、乳児がそれぞれのエージェントの視線を追従するか否かが調べられた。その後、2つの物体刺激を呈示し、それぞれの刺激に対する注視時間を調べた。この結果、ヒトもロボットも、乳児の視線追従行動を誘発したが、テストでは、ヒト条件のみ、エージェントがターゲットとした物体とは別の物体を長く注視した。このことは、乳児が、ヒトからのみ物体学習をしたことを示唆するものである。
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