研究領域 | 人とロボットの共生による協創社会の創成 |
研究課題/領域番号 |
21118005
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
板倉 昭二 京都大学, 文学研究科, 教授 (50211735)
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研究分担者 |
開 一夫 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (30323455)
植田 一博 東京大学, 情報学環, 教授 (60262101)
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キーワード | ロボット / 生物性 / 肯定バイアス / ミュー・サプレッション / 社会的接触 |
研究概要 |
今年度は、以下の3点が成果としてあげられる。 【1】生物性・ヒト性認知の客観指標の確立 ロボットによる社会的接触(social touch)に関する研究を行った。身体的接触は最も基本的な社会行動の一つとされ、社会心理学の分野では身体的接触が対話相手の印象を向上させることが報告されている。そこで、対話相手がロボットである場合でも、ロボットからの身体的接触が対話相手であるロボットの印象を向上させるかどうかを、特に身体接触があることによってロボットに対する負の感情(negative feeling)を抑制できるかどうかを、最後通牒ゲームを用いて検討した。具体的には、実験参加者に対してロボットが不公平な分配を提案する際に身体的接触を行う場合と行わない場合とで、不公平感に関連するとされるMFN(Medial Frontal Negativity)と呼ばれる脳波が出るかどうかを検討した。その結果、MFNは身体的接触がある場合よりもない場合で強く出現した。このことは、ロボットによる身体的接触がロボットに対する不公平感を抑制したことを示している。今後、このような身体的接触をロボットによるカウンセリングや教育の場面へ応用することが期待される。 【2】生物性・ヒト性認知の発達機構の解明 乳児がロボットと人をどのように認知・弁別しているのかについて発達認知神経科学的手法を用いて研究した。動作の滑らかさと見かけの関係を明確にするため、ロボット・アンドロイド・ヒトが同じ動作(把握など)を行っている場面を呈示した場合の、mu-suppressionを分析した結果、ヒトと外見が酷似したアンドロイドで動作が呈示された場合は、外見がヒトと異なるロボットで呈された場合と比較してmu-sppuressionの度合いが大きいことが明らかになった。アンドロイドとロボットの動作は同一であった。この結果は、発達初期から見かけと動作(の認知)が相互作用していることを示唆している。 【3】ヒト性認知が知識獲得に与える影響の解明 幼児は、質問者の質問に強い肯定バイアスを示すことが報告されている。例えば、赤いリンゴを見せて、「これ青い?」と問うと、「YES」と応えてしまう。今年度は、ヒト以外のエージェントに対しても、こうした肯定バイアスを示すか否かを検討した。ビデオ映像に、ヒトおよびロボットが物に関する質問を発する場面を4~5歳児に呈示し、それに対する回答を記録した。その結果、4,5歳児は、ロボットの質問に対しても肯定バイアスを示すことがわかった。また、成人を対象に、社会的な応答を返す社会的ロボットと社会的応答を返さない非社会的ロボットを見ているときの脳活動を計測したところ、非社会的ロボット条件に比べて、社会的ロボット条件では、右の島皮質の有意な活動がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【1】生物性・ヒト性認知の客観指標の確立については、新しい社会的接触の実験を開始し、一定の結果を得ている。 【2】生物性・ヒト性認知の発達機構の解明に関しては、昨年度、成人で実施した概念や方法を、乳児に適用し、同様の結果を得ている。 【3】ヒト性認知が知識獲得に与える影響の解明については、肯定バイアスという幼児に特徴的な現象がロボットに対しても適用されるか否かを検討したもので、知識獲得の要因解明に近づく研究である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、これまでと同様、個別実験を遂行するとともに、複数のロボットを用いたインタラクションを、それぞれの目標別に調べる。その際、他班との連携を密にし、A01班のプラットホームやロボットを利用して実験を行う。特に計画の変更はない。
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