研究概要 |
A03-1では,X00より改良された研究用プラットフォームの提供を受け,小学校ならびに東京拠点に開設した実験教室において,延べ76名の児童を対象に協調学習授業を展開し,ロボットが子どもたち同士の話合いに基づく学習活動を支援できることを実証した.同時にこの一連の研究からは,ロボットが2,3人の子どものグループに混じって学習する時,「先生の代わり」を演じるよりも,真摯に学び合う友だちとして認知されるような振る舞う時,子どもたち自身の学習活動が活発になることも確認された.この予想はこれまで長い間想定されてはいたが,人を使っての実験が不可能だったため,実証されたのは初めてである.年度末には,不特定多数の子どもたちが参加する一般公開型のワークショップでこれまでより低年齢の子どもたちを相手にロボットが創造的な協調活動を誘発できることを確認した.領域内ではこの他に,大学生による共同問題解決場面,キャリアカウンセリングなど対話による自己啓発型ワークショップ場面,高齢者への創造活動支援などの場面でそれぞれロボットの介在が望ましい効果を引出し得ることを確認し,それらの効果を引出すためのロボットの振舞い方についての知見を得た.これらの成果からは,現在改良を続けている遠隔操作型ロボットの動作や会話,またそれらを操作するためのより使い易く稼働性の高いインターフェイスや学習過程を学習者毎に記録,再生するシステムの開発,人ロボット間での信頼関係の構築に対する知識や理解の効果測定等の形で他領域に対して新たな研究課題を提供し始めており,今後,これまで以上に緊密な領域間での連携研究が可能になる. 領域内での会議は4回開催し,領域内での最新の研究成果を共有し,研究を推進すべき方向性について議論を深めた.23年度の成果は,国際学習科学会の国際会議(Computer Supported Collaborative Work),日本ロボット学会,認知科学会などでそれぞれ招待シンポジウムとして発信された他,上記CSCLでは実践研究の基礎となる理論的な研究がベスト論文賞を獲得した.また遠隔ロボットによる協調活動支援という話題が埼玉県県立高校学力向上基盤形成事業年次報告会での招待シンポジウムでも取り上げられるなど,教育現場からも注目を集めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
協調学習を有効に進める条件を探る実証実験が順調に進み,領域創成時には仮説に過ぎなかったロボットの「良い聞き手」としての役割の有効性が教室に近い実証実験場面で実際に安定して観察されるようになった.ロボットがより年齢の低い不特定多数の集まるワークショップの場でも子ども同士の創造的な活動をより効果的に誘発することが確認されるなど,こういった活動がA01,A02に対して新たな研究課題を提供することによって領域全体の活動を活性化しつつある.
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今後の研究の推進方策 |
今後,特に今年度は中間評価を受け,領域間の関係をこれまでより密にし,人とロボットの共生関係をより現実的かつ継続して実践可能な場面で支援する方向で研究を進める.具体的には,実験教室だけでなく,年齢幅の広い不特定多数児童を対象にした創造性開発ワークショップなどでの協調活動に対する実証実験,高齢者の協調活動支援など現実社会で起きる協調活動を扱って多様なデータを収集,分析し,こういった場面から人とロボットの共生を可能にするロボット工学、認知科学分野への新たな課題を抽出して,領域全体に共通する課題を設定して3計画班間の連携を活性化する.同時に,教員がロボットを操作することによって協調学習支援の仕方を学び授業力を向上させる研修方法を開発するなど,A03が対象とする研究領域そのものを拡張して,これまでの研究成果の一般化を図る.
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