研究領域 | 人とロボットの共生による協創社会の創成 |
研究課題/領域番号 |
21118007
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三宅 なほみ 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (00174144)
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研究分担者 |
大島 純 静岡大学, 情報学部, 教授 (70281722)
白水 始 国立教育政策研究所, 初等中等教育研究部, 総括研究官 (60333168)
中原 淳 東京大学, 大学総合教育研究センター, 准教授 (00342618)
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研究期間 (年度) |
2009-07-23 – 2014-03-31
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キーワード | 知的創造活動支援 / 知能ロボティクス / 学習参加型協調学習 / 学習科学 / 認知科学 / ワークショップでの学習 |
研究概要 |
当班では昨年度に引き続き東京拠点実験教室において,11名の児童を対象に3回連続して協調学習授業を展開し,ロボットが初回だけでなくより継続的な学習活動を支援できることを確認した.同時に操作者がこのような体験を継続的に積むことにより「子どもの協調活動そのものの支援」に対して反省的な視点を得られる可能性が示唆された.12月には埼玉県立大宮高等学校においてロボットを使った演劇を通してコミュニケーションについて考える授業で,アクトロイドと卓上ロボットへの行動対比を観察し,両者への反応の違いを確認した. 3月には昨年度同様不特定多数の子どもたちが参加する一般公開型のワークショップに出展し,2日間で総勢623名の児童の反応記録をとり,芸術作品の対話型鑑賞場面においてロボットの支援が子どもたちの自由な発想を促すのかを昨年度より精度高く検討するための言語記録簿を作成した.その他サイエンスアゴラ(11/10・11日本科学未来館),HRI2013同時開催当領域主催ワークショップでの中学生によるデモ授業(3/3日本科学未来館)等これまでより多彩な場面でロボットによる「学び合う相手としての介入」の効果を確認した. 領域内では,大学生による共同問題解決場面,キャリアカウンセリングなど対話による自己啓発型ワークショップ場面でそれぞれロボットの介在が望ましい効果を引出し得るという結果を論文化した. 領域会議を4回開催し,領域内での研究成果を共有し研究を推進すべき方向性について議論を深めた.24年度の成果は,認知科学国際会議(CogSci2012招待シンポジウム),教育工学会,日本ロボット学会,当領域主催ワークショップで発信し,新規な研究領域として高い評価を得ると同時に各学会から出版への招待を得た.また現場での活用可能性について,国立教育政策研究所,埼玉県,静岡県,鳥取県の教育委員会などから注目を集めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
東京拠点において,11名の児童に対し3回連続して協調学習授業を行った.初期効果が高いと想定される単発実験だけでなく,より継続的な子どもたち同士の話合いに基づく学習活動を支援できることを確認し,現場への安定的な導入に向けて研究を進めることができた.同時に操作者が継続的な体験を積むことにより「子どもの協調活動そのものの支援」に対して反省的な視点を得られる可能性が繰り返し示唆されており,教員養成研修への適用可能性を探る段階に来ている. 12月に実施した埼玉県立大宮高等学校における授業:人間関係論では,アクトロイドとRobovie-W型卓上ロボットへの行動対比を観察した.アクトロイドに対しては「見えるままの人として」振る舞う傾向が強いのに対し,Robovie-Wに対しては「自分たちの仲間として」の反応が多見された.本結果は今後学習場面にどのような形態のロボットを介入させるかとして,国際学会でも関心の高いテーマに発展させる. 3月に開催した一般公開型のワークショップ参加児童総勢623名の反応からは,芸術作品の対話型鑑賞場面においてロボットがごく自然に子どもたちの自由な発想を促す対話を支援する行動が観察された.本分析はロボットを介在させたより一般的なコミュニケーション能力育成プログラムの開発につなげる. その他従前より多彩な場面でロボットによる「学び合う相手としての介入」の効果が確認できつつあり,今後多様性のある小・中・高等学校に実際にロボットを導入して対話による学び合いの支援や子どもたちの疑問の収集など,これまで教師だけでは難しかった学習支援の可能性が具体的に見えてきている. 新規な研究領域として高い評価を得ており,招待を受け出版準備を進めている.同時に学習途中の学習プロセスデータを収集する新技術の開発に向け,国立教育政策研究所,埼玉,静岡,鳥取の各県教育委員会などからも注目を集めている.
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今後の研究の推進方策 |
協調学習を有効に進める実証実験が一回性の実証実験だけでなく複数回継続的に効果を生むことが確認されるなど順調に進み,領域創成時には仮説に過ぎなかったロボットの「良い聞き手」としての役割の有効性が教室に近い実証実験場面で実際に安定して観察されるようになった.小中学生を対象とした拠点実験教室だけでなく,高校生を対象とした高等学校の教室での対話型学習支援,またより年齢の低い不特定多数の集まるワークショップの場でも子ども同士の対話による芸術品鑑賞という創造的な活動を,多人数に対して安定的に引き起こせることも確認され,今後の発展の方向がはっきり見えてきている.こういった活動がA01,A02に対して新たな研究課題を提供することによって領域全体の活動を活性化しつつある. 今後の研究の推進方策は大きく3点ある.1点目は実際に教室現場に導入するためのロボット自体の質向上に向けての指針作りである.2点目は導入時のロボットの操作に対する指針ならびにこの指針を教育者が作っていくことによる教育力育成など「良い聞き手」としてのロボットを操作する側の経験効果の活用に活路を開くことである.最後は,こういったロボットの活用が,「良い聞き手」として存在し回りの学習者の発話や身振りなど言語行動データを詳細かつ継続的に収集でき,その成果を「良い聞き手」そのものの振る舞いの質を上げる方向に発展させることである.人は,発話の直後再生を求められても応じることが難しい.その点ロボットは,かなり前に発話したことでも自他の発話に関わらず記録したことであれば正確に復唱可能である.また,ロボットを複数,子どもたちの学びの場に介在させることにより,教室という多人数場面での学習者個々人の発話や動作など,多様な学習履歴の収集が可能になる.こういったデータ収集再生能力を今後発展的に活用する更に新しい融合領域研究の可能性が見えてきている.
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