研究概要 |
研究は,所得格差の拡大傾向や貧困リスクの高まりの動学的なメカニズムを解明するとともに,所得格差や貧困が子育てや介護,子どもの健康,就業行動,主観的な幸福度や健康意識に及ぼす影響を解明することを目的としている。初年度である平成21年度においては,この目的に沿って主に次の6つの予備的分析を行った。(1) 子どもの健康格差は社会経済状況に起因しているとの想定に基づき,先行研究や「国民生活基礎調査」をもとに日本の子どもの健康格差のエビデンスを集積した。(2) 全国べースのアンケート調査にもとづき,回答者の様々な属性が医療負担に関する意見に及ぼす影響や,医療の給付・負担に関連する様々な属性の相対的な重要性を分析するとともに,保険料(税)の料率を価格変数として設定した場合に、他の医療費負担が相対的にどの程度の負担として人々に認識されているかを限界支払意思額の計測から検討した。(3) 「全国消費実態調査」「出生動向基本調査」に基づき,主として1990年代以降,子どもの出生時点における人的資源(親の学歴等)や経済的資源(所得や資産)がどのように変化してきたかを検討した。(4) 「日本版総合的社会調査」に基づき,人生の各アウトカムの重層的な構造を明示的にモデルに組み込んで,子供時代の所得環境がその後の人生にどのような影響を及ぼすかを分析した。(5) 「日本版総合的社会調査」「国民生活基礎調査」に基づき,所得格差が大きい地域ほど,幸福度と主観的健康意識が低いかどうかを,幸福度と主観的健康意識の密接な関係を考慮に入れて分析した。(6) 全国規模の脱路上生活者の聞き取り調査のデータを用いて,一般住居に移った元ホームレス達が最初についた就労の就労継続期間と継続期間に与える要因を分析した。
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