研究領域 | ヘテロ複雑システムによるコミュニケーション理解のための神経機構の解明 |
研究課題/領域番号 |
21120004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金子 邦彦 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (30177513)
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キーワード | 力学系 / カオス的遍歴 / 可塑性 / 学習 / 進化 |
研究概要 |
生命システムが自らの発展を規定する規則を生成させていく過程の理論研究を進めた。主要な結果は以下のとおりである。 1.入出力関係の学習、記憶と自発活動:記憶=アトラクターという描像にかわって、記憶の想起は入力に応じて、要請された出力が生じるように神経力学系の分岐が生じることであり、学習によってそのような分岐を起こす力学系が形成されるという描像の確立を進めた。従来の神経回路網モデルを拡張して、入力で適当な出力を持つアトラクターへと分岐するようなデザインを構築し、その解析を行った。また、アンチヘブ的なシナプス変化による学習則を提示して、入出力関係を分岐として学習していくことが可能であることを示した。さらに、入力がない時には、記憶に対応した出力を経巡るようなカオス的自発的神経活動が一般的に生成されることを確認した。これは近年の実験とも対応しうるので、今後その比較も行いたい。 2.進化と発生をつなぐ関係の定式化:環境が変動する際には、それに適応するための可塑性が必要である。遺伝子発現(発生過程)のノイズが適度な大きさを持つと、ロバストネスと可塑性の両立が可能であることを示した。 3.多時間スケールダイナミクスとしての適応現象の理論:速い応答を示し、遅く緩和する力学系としての適応現象をもとにして、これがWeber則(入力の比のみで決まる応答をする)をみたす条件、さらに大自由度力学系での集団としての適応を明らかにした。 4.振動を示す力学系がサドルノード分岐を相互作用により起こす場合、結果として状態が分化することを明らかにし、これにより安定した細胞分化が生じるしくみを力学系、ネットワークの両面から明らかにし、実験との対応を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
外部入力による分岐としての学習、記憶の描像とそのモデル化に成功したのは計画以上の進展である。今後の展開のための大きな基盤ができたと考えている。 次に、進化、適応とゆらぎ、多時間スケールダイナミクスの関連の研究は順調に進展しており、こちらは生命現象への新たな理論的視点を与えるのに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
進化、適応で進展してきた、可塑性の力学系的な見方を、脳の認知ダイナミクスに結び付けていきコミュニケーションの基盤をつくるのがひとつの課題である。他方、分岐としての学習、記憶の理論は基本ができたので、これを発展させてカテゴリー、汎化までひろげ、脳理論の1つの規範型にまで広げていくことが求められる。この研究は前者の可塑性の研究と密接な関係があり、それを数理的に一般化できればコミュニケーションのための数理基盤につなげられる。また、分岐としての学習、記憶の理論の実験的検証に向けて実験家とも連携していきたい。
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