研究概要 |
言語理解や他者の動作理解において,他者の運動指令を予測しつつ模倣学習を進めるというダイナミックな情報の処理過程が重要であることが乾(1998)により予見されており,その妥当性について実験的に明らかになってきている.音声を理解する際においても,構音にかかわる器官の活動が重要であることが指摘されており,このことはミラーニューロンシステムを介した他者の運動系列予測を実施することがコミュニケーションの創発原理であることを示唆している.本研究課題では,ミラーニューロンシステムに着目して,言語・非言語コミュニケーションの創発原理にかかる神経機構の解明を目標としている.そこで平成23年度までに,言語理解におけるミラーニューロンシステムの関与を示唆するモデルを,発達心理学・神経心理学・神経生理学・脳イメージング研究などのデータに基づき提出した.このモデルの妥当性を検証するための実験準備を開始しており,その第一段階として位置づけられる脳波計測は平成23年度内に完了した.また,音声言語コミュニケーションがミラーニューロンシステムに関連する神経振動子協調により実現されていることを示すための心理実験課題を構築するとともに,この研究細目についても平成23年度内において脳波計測実験を完了した.さらに非言語コミュニケーションに関する研究においては,新学術領域内の理論研究との協働で,2者のインタラクション時の脳波の同時計測を実施する準備が平成23年度内に完了した.これとともに,領域内の理論・実験研究との連携を目指して,他者の行動推定にもとづく報酬系回路解析を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ミラーニューロンシステムにより他者の予測的模倣を実現することにより言語・非言語コミュニケーションが実現されていることを示すために,特に研究遂行上の問題点はなく当初の計画通りに研究が進捗しているものと評価できる.さらに,当初の計画に加えて,新学術領域内での他の計画班・公募班との連携を見据え,他者の行動予測に基づく意思決定に関する研究を実施しており成果が現れ始めている.以上のことより,当初の計画以上に進展しているものと評価する.
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今後の研究の推進方策 |
現在までに言語・非言語コミュニケーションの神経基盤に関する研究細目として,以下の4項目の研究を実施している.「(1a)言語の意味理解における脳内情報統合」「(1b)音声言語コミュニケーションにおける神経ダイナミクス」「(2a)遅延視覚フィードバック刺激を用いた他者のジェスチャ模倣」「(2b)他者の行動推定にもとづく報酬系回路の変化」 平成24年度以降において,それぞれの研究項目の完成,およびこれらの研究課題による結果に基づき,言語・非言語コミュニケーションを統一的に記述可能な理論的枠組みの提出を目指して研究を行う.
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