研究領域 | ヘテロ複雑システムによるコミュニケーション理解のための神経機構の解明 |
研究課題/領域番号 |
21120010
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
大森 隆司 玉川大学, 工学部, 教授 (50143384)
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研究分担者 |
有田 隆也 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (40202759)
長井 隆行 電気通信大学, 情報理工学研究科, 准教授 (40303010)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 他者 / 状態推定 / 行動観測 / ロボット行動決定 / 相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究では,対人インタラクションの全体像の情報処理的記述と脳的な情報処理モデルでの実現方策の検討を行っている.これまで,子供と遊ぶ機能としてゲーム実行プログラムを備えた対人ロボットを構築し,5歳児との遊び実験を行ってきた.その結果,遊びがうまくいくケースといかないケースがあった.例えば,子供がロボットの行動決定モデルで想定した範囲内のスタンスをとってくれる場合は遊びが成立した.しかし3割の子供は,モデルが当初に想定したものとは異なるスタンスでロボットに対応し,遊びのコミュニケーションが成立しなかった. 一方で人間の子供のエキスパートである保育者の口頭報告では,保育者は最初の数分で子供の性格傾向を推定し,それに合わせた働きかけの戦略を選択していた.すなわち我々のロボットでは,ロボットの行動モデルの想定範囲が狭いことが問題の原因であり,子供の性格に合わせた働きかけのモデルが必要であると推定された.さらにこのことは,子供の行動から子供の性格・タイプを推定するという課題を提示している. そこで平成24年度は,子供の行動からその子の性格を推定するための基礎的研究を行った.すなわち,ロボットと子供の遊び実験において,同時に子供についての性格調査を保護者に行ない,ロボットから観測可能な行動指標と子供の性格項目との関係を調査した.両者の関係をみたところ,遊び場面における子供の振り向き行動の頻度と性格検査の家庭不適応の項目との間に相関が認められた. 家庭適応のスコアの低い子供は,遊びの間にも何度も保護者を振り返って笑いかける,話しかけるなどの行動が見られることが知られている.本実験でも,この行動傾向がロボットから観測される行動として検出されたものと考えられる.他には,遊びに対する好みの男女差が見られたが,それ以外には顕著な傾向はみられなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,対人インタラクションにおける役割分担の発生過程のモデル化を目標とするが,現状では,インタラクションの全体像の情報処理的記述を行っている.これまでのロボットと5歳児の遊び実験を通して,ロボットの対人行動決定モデルの検討を行い,そこでその場の状況に応じた行動の重要性が明らかになってきた. 現状は,子供の性格に合わせた他者モデルの選択という課題に直面し,そのための研究を実施中である.しかしそれと並行してすすめるべき問題として,人の適切な行動を誘導する状況そのもののモデル化を行っていく必要がある.さらに役割分担の自律的な発生のためには,人が相手を自分に合わせてくれる主体的な存在であると認識する必要があると考える.これもまた,状況依存の行動決定の結果として実現される可能性が高く,状況モデルの構築が必要である. このように,役割分担の発生という課題に対して全体像が次第に明らかになってきたことは前進である.平成24年度は5年計画の4年目であり,最終年度にむけて次に述べる再度の遊び実験を行い,改良した行動モデルおよびロボットの効果を確認するとともに,状況モデルの検討を行う.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,最終年度としてこれまでの議論を取り込んで改善したロボットおよび行動決定モデルにより再度の遊び実験を行い,改良の効果を確認する.また今後の展開として,人間が行動決定のためのタスク認知の基盤となっている状況モデルの検討を行う.そのため,ロボットが観測する他者についての情報量を増やして状況-行動関係を明らかにすることを目指す. 具体的には,人のうなずきや小さな身振りなど,人間同士の相互作用では人の心的過程を表すとして使われていながら,ロボットインタラクションではほとんど無視されている情報を観測する手段を構築し,それに基づく状況の分節を検討する.
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