研究概要 |
本研究は,コミュニケーションを,新しい表現や意味の生成・意味づけ・共有の連鎖プロセスとして捉え,表現・意味・構造の生成という動的・生成的コミュニケーションについてのシステム論的理解を目的とする. この連鎖プロセスの計算モデルを構築しシミュレーションにより解析した.このモデルは,文脈自由文法で実装される記号システムと,全結合神経回路網で実装される意味づけシステムのヘテロシステムである.前者は受け取った発話=文字列に対する内的表象を生成しながら文法を獲得する.後者は内的表象に対して内部ダイナミクスをつくり出し,自らの発話に対応する内的表象を出力する.出力された内的表象は記号システムによって発話に変換され,相手に渡される.まず,このモデルによって新しい発話・意味の生成・共有が起き得ることを示した.そして,文法ルールを自身の言語知識に拡大適用する「言語的類推」の働きが記号システムに起きることで新しい発話と表象が生成されることを明らかにした.一方,意味づけシステムに起きる分岐と軌道不安定性から,新しい表象の生成が生じることを示唆した.また,記号システムではコミュニケーションを通じて発話可能な記号の共通性が発達するが,直接他者と相互作用しない意味づけシステムのダイナミクスには同期は生じていないことがわかった. 上記連鎖プロセスに対応する2種の認知実験パラダイムを構築した.1)二者が協働・相互作用しながらグラフィックデザインを行う.主に生成に着目し,上記モデルの研究と対応しやすいパラダイムであり,モデルの検証へと発展させる.2)人工言語を用いて実験参加者がコミュニケーションを行い,そのコミュニケーションを通じてプロトコルを理解するプロセスを観測する.主にコミュニケーションにおける意味や言語の共有に着目し,計測を想定してできるだけ簡単であるが生成を観測できる可能性を持たせたパラダイムである.
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