研究概要 |
本研究は,コミュニケーションを表現生成と主体的意味づけの連鎖と捉え,動的・生成的コミュニケーションを支えるメカニズムの理解を目的としている.これまで,調整ゲームとコミュニケーションを組み合わせて,記号コミュニケーションシステム創発過程を定量的に分析する認知実験を構築してきた. 実験の分析より,記号コミュニケーションシステムの形成過程には3つの段階があることがわかった.この3段階は,共通基盤,記号システム(語彙・統語),役割分担の形成であり,各段階が次段階の基盤となっている.これら3段階の形成要因として,共通基盤と記号システムには行動と記号使用の規則性が,役割分担には記号システムの同型性が関与することがわかった.記号システム成立過程の解析より,役割分担は最終段階で成立するものの,最初の段階から役割分担を目指したような記号システムが作られていくことが明らかになった. 行動と記号使用の規則性により記号に対する意味づけがなされるが,この実験は記号システムを共有するだけでは完全に解けず,ターンテイクを利用して先手が現在位置を,後手が行き先を送る役割分担をすることが重要となる.すなわち,単に記号が指し示す事物を理解するだけではなく,それが現在位置・行き先のどちらを意味するのかも意図して記号メッセージを送りその意図が理解されるようにコミュニケーションシステムを成立させなくてはならない.参照する事物という字義通りの意味と,文脈に応じて何を意味するのかという含意・意図が分離して理解される必要がある.この研究は,このような参照と意図という二重の「意味」が生成し語用論的に共有されグラウンディングされる過程と要因を明らかにした画期的なものである. さらに,領域中の他班との共同研究により本課題遂行中の2人脳波同時計測を行い,記号コミュニケーションシステムを成立させる脳内神経機構を一部解明している.
|
今後の研究の推進方策 |
2人脳波同時計測では,2者間の脳波の相互作用について解析を進める.これまでに記号コミュニケーションの成立段階に特徴的な脳活動が明らかにしてきたものの,まだ一人の脳波の解析によるものであり,2人の同時計測という特徴が活かされていない. 認知実験は,意図伝達の成立部分に注力してさらなる実験と解析を進める, 新しい意味や表現の生成という記号コミュニケーションの創造的側面について研究を進展させるよう,これまでの認知実験の成果をもとにして,シミュレーションモデルの開発と実験パラダイムの改良を行う.
|