研究領域 | 過渡的複合体が関わる生命現象の統合的理解-生理的準安定状態を捉える新技術- |
研究課題/領域番号 |
21121002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
嶋田 一夫 東京大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (70196476)
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研究分担者 |
甲斐荘 正恒 首都大学東京, 公私立大学の部局等, 教授 (20137029)
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研究期間 (年度) |
2009-07-23 – 2014-03-31
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キーワード | 構造生物学 / 核磁気共鳴法 / 過渡的複合体 / 膜タンパク質 / 構造平衡 |
研究概要 |
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)はリガンドが存在しない状態でもGタンパク質を介したシグナルを惹起し(基礎活性)、またリガンド結合によるシグナル伝達活性の強度は、リガンドによって異なること(薬効度)が知られている。これまでに様々なリガンドに結合したGPCRの結晶構造が明らかになっているにもかかわらず、リガンドごとに薬効度が異なる機構は明らかではない。そこで、NMRを用いて、beta2 adrenergic receptor (b2AR)を解析対象とし、b2ARのシグナル制御機構の解明を行った。 b2ARには、9残基のメチオニンが広く分布しており、活性化にともない大きく構造変化する部位に存在することから、メチオニンメチル基をプローブとしてNMR解析をおこなうこととした。薬効度の異なる作動薬の結合状態について、シグナルの変化を解析したところ、薬効度依存的に、活性化状態と不活性化状態との中間の位置にシグナルが観測され、b2ARは、基本的に2種類の不活性化状態と、活性化状態の間の動的平衡状態にあることが示された。 またリガンドごとに薬効度が異なる機構を、以下のように説明することができる。完全作動薬結合状態では、b2ARはほぼ活性型コンフォメーションにあり、最大のシグナル伝達活性を示す。部分作動薬結合状態では、主に不活性型コンフォメーションと、活性型コンフォメーションの平衡にあり、後者の割合が高いほど、より高いシグナル伝達活性を示す。阻害薬結合状態では、3つのコンフォメーションの平衡にあり、わずかに存在する活性型コンフォメーションによって、基礎活性が発揮される。逆作動薬結合状態では主に不活性型コンフォメーションをとり、ほとんどシグナル伝達活性を示さない)。すなわち、b2AR は生体膜上で活性型と不活性型の構造平衡を取りシグナルを制御しており、リガンドはその平衡をずらすことにより薬効度を発揮していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
膜タンパク質が形成する過渡的な複合体の観測に関して、当初予定していたリガンド分子側だけではなく、膜タンパク質側のNMRシグナルの観測が可能となり、GPCRをはじめとする膜タンパク質の過渡的複合体の構造情報を得る方法が確立できた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度を迎えるにあたり一層の研究の加速を目指す。膜タンパク質の直接観測が可能となったことを踏まえ、安定同位体標識GPCRをこれまでに開発した再構成法を用いて脂質二重膜中に埋め込み、生理的条件に近い環境におけるGPCRの構造情報を得る研究にも取り組む。
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