研究領域 | 過渡的複合体が関わる生命現象の統合的理解-生理的準安定状態を捉える新技術- |
研究課題/領域番号 |
21121003
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
神田 大輔 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (80186618)
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キーワード | タンパク質 / 分子認識 / 細胞内輸送 / プレ配列 / ミトコンドリア / Tom20 / 複合体安定化技術 / ジスルフィド結合 |
研究概要 |
ミトコンドリアを構成するタンパク質の大部分は細胞質においてプレ配列がN末端に付加された前駆体タンパク質として合成される.ミトコンドリア外膜に存在するTom20がプレ配列を最初に認識する.Tom20が持つプレ配列に対する広い選択性の構造基盤を明らかにするために、リンカーを介した分子間SS結合を導入(テザー係留技術)あるいはプレ配列内に分子内SS結合を導入(分子内架橋係留技術)して,プレ配列の解離会合平衡を複合体側にシフトする方法の適用を行ってきた.その結果,Tom20は複数の結合状態を用いてプレ配列を動的に認識していることを提唱した.今年度はテザー係留技術法に関して第2世代デザインの検討を引き続き行った.プレ配列側にSS結合の起点として非天然アミノ酸であるAMP(システインより側鎖が2つのメチレン基分長い)を導入した複合体の結晶化を行い,新たに2つの結晶構造決定を行った.さらに溶液中で^<15>N緩和時間測定を行った.残念なことにプレ配列ペプチドは結晶パッキングの影響を受けて変形していること,溶液中において運動性が大きく制限されていることがわかった.AMH(AMPよりさらにメチレン基が1つ分長い)では結晶は得られなかった.したがって,新しいデザインは適当ではない可能性がある.D型システインを用いた分子内架橋係留技術を適用したプレ配列はTom20に対する親和性が100倍以上向上する.これを任意のパッセンジャータンパク質とSortaseAを用いたプロテインライゲーションを用いて共有結合させる反応条件を確立した.今後,ラットのミトコンドリアを用いてインポート効率を調べる.単細胞紅藻葉緑体の受容体Toc34を小麦胚芽試験管内蛋白質合成系を用いて調製を試みた.タンパク質は合成できたが,濃縮操作をすると失われてしまった.詳細な条件検討を行ったが良い結果が得られなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新しい複合体安定化デザインを試したが,デザインが適当でないことがわかった.本実験の内容はタンパク質の単なる構造決定ではなく,新しい方法論の開発を目指しているので試行錯誤を数多くしなくてはならない.結晶解析やNMR緩和時間解析は長い時間と労力がかかるので,1つのアイディアの可能性を検証するのに1年程度かかるのはやむを得ない.
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今後の研究の推進方策 |
複合体のリガンド解離会合平衡を結合側にシフトさせて結晶を得て,原子分解能の構造情報(結晶スナップショット)を得ることが本計画の骨子であるが,サンプリングの問題が存在する.これは結晶スナップショットを多数集めても,プレ配列の結合状態の集合を正しく反映するとは限らないという問題である.これを解決するために,結晶格子中でプレ配列が結晶コンタクトに影響されないような結晶をつくることが考えられ,それを実現するための新しい方法を今後検討する予定である.
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