研究領域 | 過渡的複合体が関わる生命現象の統合的理解-生理的準安定状態を捉える新技術- |
研究課題/領域番号 |
21121004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
船津 高志 東京大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (00190124)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 1分子生理・生化学 / 1分子イメージング / ナノ計測 / 受容体 / 生体膜 |
研究実績の概要 |
1. Mpl二量体の安定性とリン酸化の制御機構の解明 生細胞での一分子イメージングにより、リガンド存在下、非存在下でのMpl二量体形成過程をイメージングし、二量体形成の制御機構を明らかにした。まず、Mplを蛍光タンパク質または蛍光色素を用いて蛍光標識した。このMplが受容体と機能することを、このMplを強制発現させた細胞がリガンド依存的に増殖することにより確認した。次に、Mplを発現していない単球系の骨髄球細胞株に、蛍光標識したMplを発現させて一分子解析した。その結果、①Mplがリガンドの有無に関わらず単量体・二量体の平衡状態で存在すること、②Mpl二量体が寿命約1秒の過渡的複合体であることを明らかにした。さらに、Mpl二量体がリガンド結合に伴うリン酸化により安定化されることを明らかにした。従来Mplをはじめとするサイトカイン受容体は、リガンド結合に伴い安定な二量体を形成してリン酸化し、細胞へシグナルを伝達すると考えられてきたが、①リガンド存在下でもMpl二量体は過渡的複合体であり、その安定性がMplリン酸化を制御すること、②逆にリン酸化したMplが過渡的なMpl二量体を安定化すること(正のフィードバック)を発見した。 2. 超解像蛍光顕微鏡の構築 超解像蛍光顕微鏡を構築し、観察面上で約20 nm、奥行き方向で約60 nmの分解能を達成した。この超解像蛍光顕微鏡を用いて化学固定した細胞内のSG(Stress granule)を観察した。ストレス環境下mRNAはSGと呼ばれる構造体を形成するが、従来の蛍光顕微鏡は分解能が数百nmだったため、その微細構造は不明だった。超解像蛍光顕微鏡で生細胞内のmRNAを観察した結果、ストレス環境下mRNAが小さな顆粒を作り、その顆粒同士が大きさを保ったまま集合してSGを形成することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リガンド存在下でもMpl二量体は過渡的複合体であり、その安定性がMplリン酸化を制御していることを明らかにした。また、逆にリン酸化したMplが過渡的なMpl二量体を安定化すること(正のフィードバック)を発見した。これらの発見は、「過渡的複合体の安定性によるシグナル制御」を提唱した点で意義がある。また、現有の一分子蛍光顕微鏡に超安定ステージを搭載し、観察面上で約20 nm、奥行き方向で約60 nmの分解能を達成した。この超解像蛍光顕微鏡を用いて、生細胞におけるStress granuleの形成過程を明らかにした。以上の観点から、本研究は計画通り、おおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
まず、Mpl活性状態とその認識機構を明らかにする。次に、超解像光学顕微鏡をもちいて、造血幹細胞、巨核球、血小板における内在性Mplの一分子イメージングを行う。さらに、Mpl W515L/K変異体の動態とシグナル破綻機構を明らかにする。 当初、Mpl二量体の脂質ラフトによる制御を予想し脂質ラフトにおけるMplの超解像顕微鏡解析を予定していた。しかし、界面活性剤への耐性試験でMplの脂質ラフト親和性は認められなかった。Mpl二量体の安定性は、脂質ラフトと異なる機構で制御されている可能性が示された。そのため、超解像一分子蛍光顕微鏡で脂質ラフト上のMpl複合体を観察することは困難となった。これに対応するため、脂質ラフトでなく血小板上のMplを超解像蛍光顕微鏡システムでイメージングし、シグナル制御機構を明らかにしたい。
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