研究領域 | 過渡的複合体が関わる生命現象の統合的理解-生理的準安定状態を捉える新技術- |
研究課題/領域番号 |
21121005
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
浜地 格 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90202259)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | タンパク質 / 小分子プローブ / ラベル化 / 有機化学 / イメージング |
研究実績の概要 |
本研究では、特定のタンパク質を選択的に小分子プローブによりラベル化する新手法/技術を開発し、様々な分光学的手法でタンパク質の動的構造とその機能解析を可能とするための新しい方法論の確立を目的としている。複数のタンパク質から構成される過渡的な準安定複合体を分光学的手法により特異的に検出するためには、シグナル発信するプローブ分子を特定のタンパクへ部位特定的にラベル化する技術が必須となる。この様なタンパク質ラベル化技術は、各班の研究を実施する上で基盤となる最も重要な技術の一つである。本研究では、1H-NMR, 19F-NMR, 蛍光、EPRなどの多様な検出モダリティに適用可能な高感度プローブ分子を標的タンパク質に選択的にラベル化する新しい手法の開発を行い、他の解析研究を中心とする研究班との連携により、タンパク質準安定複合体の高精度、高感度での機能解析法を確立する。これにより分子生物学的手法とは異なる相補的な化学的アプローチにより新学術領域として本領域が目指す“動的な構造生物学”の発展に貢献したいと考えている。 本年度は、これまで我々が独自に開発してきたリガンド指向性化学の新しい反応基として、アルコキシアシルイミダゾール基が、蛋白質表面での求核的アシル置換反応剤として有効に機能する事を初めて発明した。リガンド指向にすることによって、試験管レベルではジヒドロ葉酸還元酵素が効率よくラベル化され、また生細胞系では膜蛋白質である葉酸受容体のラベル化とイメージングに成功した。これによって内在性蛋白質を生細胞そのままで特異的にラベル化する化学のレパートリーが広がるとともに、トシル化学で問題であった、反応速度の遅さや膜短波脂質への適用の難しさが克服できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
期待通りの成果が得られている。 本研究の大きな主題である「特定のタンパク質を選択的に小分子プローブによりラベル化する新手法/技術」として、当初は予想もしていなかった新たな反応を開発し、それが、試験管のような精製系だけなく、生細胞のような夾雑系でも、しかも内在性蛋白質を標的にしても、効率よく進むことを実証しつつあり、これは、期待通りの性かといって良いと自負している。また、様々な分光学的に利用可能なプローブだけでなく、光架橋が可能なプローブなどの導入もでき、その有用性を実証できた事も、大きな成果と言えるであろう。今後、この様なタンパク質ラベル化技術を、他の班との共同研究へと積極的に展開して行く予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで申請者が開発してきたリガンド指向性化学を基盤としたタンパク質のケミカルラベル化法に関する知見を総合して、LDT化学、LDAI化学およびAGD化学の特徴を明らかにするために、複数のモデルタンパク質を用いた実験を行い、そのデータを基に比較/整理する予定である。反応速度、反応するアミノ酸の種類、細胞表層/細胞内タンパク質への適用の可能性、などのラベル化を行う際問題となりうる重要なポイントに絞って、可能な限り定量的に明らかにしていく。さらに、これまでのリガンド指向性化学では、リガンドとして小分子を用いてきたが、これがペプチドやタンパク質をリガンドにできるかどうかを検討する。具体的には、環状ペプチドリガンドや、糖認識タンパク質であるレクチン、あるいは単鎖抗体を実際にリガンドとした場合に、標的タンパク質の選択的なラベル化が実現できるかを、試験管実験だけでなく生細胞系での実験でも検討する予定にしている。これらを、既に我々の蓄積技術がある液クロ(HPLC)、MALDI-TOF質量分析、Western blotting、共焦点顕微鏡(CLSM)観察、吸収や蛍光スペクトルを駆使して、アミノ酸レベルの分解能での反応部位の確定(酵素反応処理とHPLC、Tandem-Massの組み合わせによる配列同定)や、詳細な反応追跡・生成物分析だけでなく質量分析によるprotein fingerprintingも行い、定量的な実験データを蓄積する。
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