研究領域 | 過渡的複合体が関わる生命現象の統合的理解-生理的準安定状態を捉える新技術- |
研究課題/領域番号 |
21121006
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
白川 昌宏 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00202119)
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研究分担者 |
森川 耿右 (財)国際高等研究所, その他部局等, その他 (80012665)
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キーワード | NMR / 脂質シャペロン / 脂肪酸結合蛋白質 |
研究概要 |
【脂質シャペロンFABP4の細胞内構造と相互作用の解析】FABP4をAlexa488で蛍光標識し、膜透過性TAT配列を用いてHeLa細胞内に導入できるかどうかを検討した結果、良好に導入できることを確認した。続いて、15N標識したFABP4にジスルフィド結合を介してTATペプチドを繋ぎ、これをHeLa細胞内に導入して、FABP4のin-cell NMRスペクトルを取得することに成功した。 【Toll様受容体のシグナル伝達の制御】MyD88-TIRドメインを細胞導入するために、TAT-Ub-MyD88-TIRというコンストラクトを作成し、蛋白質の発現・精製を行った。得られた試料を293T細胞に導入し、TLR4依存的なNF-κBの活性化をアッセイしたところ、MyD88-TIRによるドミナントネガティブ効果に起因すると思われるNF-κB活性化の抑制が見られた。しかし、TAT-Ubのみを導入した場合でもある程度の抑制効果が見られた。これは、ユビキチン部位(Ub)の機能に拠る可能性があると思われたため、Ub部分に変異を入れ、その機能を抑えたコンストラクトを作成した。このUb変異体を使用することによりTAT-Ub部位によるNF-κB活性化の抑制は見られなくなった。 【IL-18による受容体活性化機構の解明】IL-18を重水素化し、これとIL-18受容体との複合体を調製した。TROSY測定によって、受容体の結合界面を同定することに成功した。 【19Fを使ったin-cell NMR】19F-標識したFKBP12を使ってin-cell 19F-NMRを試み、1H-15N HMQCよりも短時間・少量の細胞でも良好なスペクトルを得ることに成功した。また、FK506との相互作用をHeLa細胞内で検出することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の構想通り、15N標識FABP4を調製し、これをTAT配列を用いてHeLa細胞に導入することによって、そのin-cell 1H-15N HMQCスペクトルの取得に成功した。このスペクトルから、細胞内でのFABP4の状態(リガンド結合の有無など)について情報を得ることができると期待される。MyD88の研究については、MyD88のTIRドメインにTAT配列を繋いで細胞内導入に成功した。MyD88-TIRを導入した細胞は、TLR4のシグナル伝達経路に影響が見られため、活性を保ったまま導入できたと考えられる。この結果は、MyD88-TIRのin-cell NMR測定の実施に繋がる。一方で、in-cell NMRを行うには、現状では、導入効率が不十分なため、さらなる条件検討が必要である。IL-18に関してはNMRを用いて、IL-18受容体との相互作用解析に成功した。また、予備的な結果であるが、IL-18とIL-18受容体の複合体の結晶を得ることができた。今後、さらに結晶化条件を探索すれば、順調に複合体の結晶構造を得られるものと期待できる。以上は、順調に推移しているが、その一方で、代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)については、培養細胞を用いた発現系を構築したものの、その後の解析が進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
【FABP4】FABP4は結晶構造が既知であり、リガンドである脂質結合部位も解明されている。また、試験管内でのNMRスペクトルも報告されている。そこで、これらを参照して得られているFABP4のin-cellスペクトルを解釈する。特に、FABP4が細胞内でアポ体であるのか、或いは、何らかの脂質と複合体を形成しているのかについて知見を得たい。加えて、より詳細な解析のために、メチル選択標識を施した試料を用いてin-cellでメチルTROSYを試みる。細胞種・培養の条件を変え(脂質や薬剤添加、栄養条件変更)、in-cell NMRスペクトルに変化が見られるかどうかを調べる。また、FABP4の関わるとされる慢性代謝疾患のモデル細胞を用いた実験系の立ち上げを行う。 【MyD88】MyD88については、15N標識を施した後に、細胞導入しin-cell NMRを試みる。 【IL-18】IL-18とIL-18受容体の結晶化条件の探索を引き続き進める。 【mGluR】哺乳動物を使ってmGluRを発現させる系の構築は完了しているので、今後は、浜地格博士(京大工)らの開発したD4タグなどを利用して、細胞表層のmGluRへの標識導入を検討する。また、SUMO化を利用した手法も試みる。まず、SUMO化配列を細胞外に持つmGluRを細胞膜上に発現させ、これに酵素反応によってスピン標識や蛍光標識したSUMOを付加する。
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