計画研究
脂肪酸シャペロン・FABP4の脂肪酸輸送機構の解明を目指してダイナミクスと機能の関連を解析した。FABP4を15N標識し、NMR緩和時間測定(T1T2({1H}―15Nへテロ核NOE)を行い、モデルフリー解析により回転相関時間と化学交換寄与及びオーダーパラメータを求めた。主鎖15核のT1/T2の値から、FABP4のヘリックス-ループ-ヘリックス領域(HLH領域)が基質非結合状態においてマイクロ秒~秒時間スケールでゆらいでいることが示唆された。一方、基質であるANSを結合させると、HLH領域のRexが顕著に抑制され、新たにRexを有するようになる残基が多く存在することがわかった。さらに、FABP4 3-fluorotyrosine で標識したもののNOESY測定を行った結果、Tyr19の位置に挿入された19F間は二状態あり、その間に交換ピークが観測された。これは、HLH領域の構造のゆらぎによるものと考えられた。また、in-cell NMRスペクトルから、FABP4はHeLa細胞内ではアポ体であることが示唆された。Toll様受容体(TLR)の細胞内シグナルに関しては、リニア型ユビキチン鎖のin vitroでの物性解析を行った。熱変性実験の結果、モノユビキチンとユビキチン鎖では、熱安定性が異なることが分かった。すなわち、ユビキチン鎖の鎖長が長くなるに従って、変性温度が低下した。また、水溶液を攪拌し、剪断力を与えると、ユビキチン鎖が容易に沈殿し、繊維化することを見出した。一方で、モノユビキチンを同様の条件で攪拌してもこのような繊維化は起こらなかった。現在、細胞内環境下でも試験管内で見られたようなユビキチン鎖の繊維化が起こるのかどうかを検証している。
2: おおむね順調に進展している
当初の構想通り、15N標識FABP4を調製し、これをTAT配列を用いてHeLa細胞に導入することによって、そのin-cell 1H-15N HMQCスペクトルの取得に成功した。このスペクトルから、細胞内でのFABP4の状態(リガンド結合の有無など)について情報を得ることができ、FEBP4はアポ体で存在することが示唆された。TLRの研究については、下流のシグナル伝達に重要なポリユビキチン鎖について興味深い性質を見出した。すなわち、ユビキチン鎖による線維形成である。これに関して、様々な物理化学的測定を行い、その物性を評価した。ユビキチン鎖の繊維化は、全く新規のものであり、ユビキチン関連分野に大きなインパクトを与えるものと思われる。
脂肪酸シャペロン・FABP4については、脂肪細胞を用いて同様のin-cell NMR実験を行い、細胞内在性の脂質分子と結合しているかどうか、結合しているとすれば選択制があるかどうかを調べる。同時に、培養の条件によって、スペクトルがどのように変化するのかを調べる。FABP4の核内移行を促進するリガンド分子と、そうでないリガンド分子が存在することが知られている。これらとFABP4との複合体について試験管内で核スピン緩和実験を行い、FABP4の構造ゆらぎと核内移行活性の相関を調べる。また、in-cell NMR法を用いて細胞内での核スピン緩和時間測定を試み、細胞内での構造ゆらぎに関する知見を得る。Toll様受容体(TLR)の細胞内シグナルに関してはその下流で重要な役割を果たすポリユビキチン鎖の構造や運動性の解析を進める。特に、in-cell NMRを利用し、細胞内と試験管内での構造の違いを明らかにする。これら情報と、細胞内で発生している物理的な剪断力や細胞質の粘度の情報を統合し、ポリユビキチン鎖の細胞内での状態や物性についての知見を得る。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
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