研究領域 | 過渡的複合体が関わる生命現象の統合的理解-生理的準安定状態を捉える新技術- |
研究課題/領域番号 |
21121007
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
早坂 晴子 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (70379246)
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研究分担者 |
白 忠彬 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任助教(常勤) (10512840)
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キーワード | ケモカイン / 膜ラッフル / 細胞遊走 / リンパ節転移 / 乳癌 |
研究概要 |
CCR7は、二次リンパ組織へのリンパ球移動に必須の役割を果たすケモカインCCL19・21に対する受容体である。近年、乳癌などの癌において、CCR7を介したシグナルが癌細胞のリンパ節転移に関与する可能性が示唆されている。私はこれまでに、マウスT細胞およびヒト乳癌細胞株MDA-MB-231のCCR7反応性が、CCR7非結合性のCXCL12により亢進することを明らかにした。本年度は、1.CXCL12処理により癌細胞膜上のCCR7の局在が変化し、これによりCCR7反応性が亢進する可能性について検討した。ケモカイン受容体・EGFPあるいはmCherryキメラを発現する乳癌細胞株を用いて、各ケモカイン受容体の細胞膜局在の変化を解析したところ、CXCL12添加により、CCR7/CXCR4集積ラッフル膜の形成が促進され、CCR7/CXCR4集積ラッフル膜部位におけるCCR7リガンドの結合が亢進することが明らかになった。また膜ラッフル部位ではCCR7リガンド依存的CCR7シグナル亢進が観察された。これらの結果から、CXCL12がCCR7/CXCR4集積ラッフル膜形成を促進し、ラッフル膜でCCR7リガンド結合とCCR7シグナリングを亢進することにより、CCR7反応性が亢進するメカニズムが考えられた。2.CXCR4リガンドによるCCR7活性促進と癌のリンパ節転移との関連を検討するため、CCR7依存的細胞浸潤に対するCXCL12の影響を解析した。その結果CXCL12処理によりCCL21依存性細胞浸潤が有意に増加した。また、CCR7遺伝子導入細胞では、in vitro細胞浸潤能とリンパ節転移能が増加した。またコンディショナルCXCL12発現細胞株でもリンパ節転移能が亢進した。免疫組織学的解析により、MDA231腫瘍原発巣のCXCL12とCCL21はそれぞれ、腫瘍全域とリンパ管周囲に検出され、CXCR4/CXCL12の相互作用により乳癌細胞がCCL21依存的にリンパ管へ移動するという仮説と矛盾しない結果が得られた。以上の結果から、CXCL12は乳癌細胞のCCR7依存的リンパ節転移を促進する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定したCXCR4リガンドによるCCR7活性促進の分子メカニズムの解析については、ケモカイン受容体の細胞内局在変化とリガンド結合増加、シグナル伝達の増大というストーリーを立てることができた。一方で、この現象がリンパ節転移能と相関するか否かについては、CCR7高発現株の解析がすすんだものの、当初得たCCR7ノックダウン発現細胞株のノックダウン効率が低下したため、実験結果を得ることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得ることのできなかったCCR7安定ノックダウン細胞株、およびコンディショナルCXCL12発現CCR7ノックダウン細胞を比較し、CXCL12発現が増加することでCCR7依存的なリンパ節転移が亢進するという仮説をさらに検討する。 これまで遺伝子トランスフェクションはリポゾーム法でおこなっていたが、nucleoporatorで導入すると高効率で導入できることが明らかになった。このためCCR7ノックダウンおよびCXCL12発現ベクターはこの方法で導入することにする。
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