研究領域 | 過渡的複合体が関わる生命現象の統合的理解-生理的準安定状態を捉える新技術- |
研究課題/領域番号 |
21121007
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
早坂 晴子 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70379246)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 細胞移動 / 免疫細胞 / ケモカインシグナル / 接着分子 / がん転移 |
研究実績の概要 |
1. ケモカインは7回膜貫通型 G タンパク質共役型受容体 (GPCR)を介して細胞内にシグナルを誘導する。細胞のケモカイン応答において、それぞれのケモカイン受容体が単独で機能する一方、複数のケモカイン受容体の協働作用が重要である可能性が示唆されている。これまでの研究から、CXCR4リガンドケモカイン(CXCL12) が、 T 細胞の CCR7 依存的遊走と in vivo におけるリンパ節へのトラフィキングを促進することを明らかにした。一方CXCR4 のウイルスリガンドであるヒト免疫不全ウイルス (HIV-1) エンベロープタンパク質 gp120 も、CXCL12 と同様の作用が観察された。CXCR4によるCCR7反応性亢進のメカニズムをヒト乳癌細胞株を用いて解析した結果、CXCR4リガンドは膜ラッフルを誘導し、膜ラッフルへのCXCR4およびCCR7の集積、さらに細胞遊走先端でのCCR7リガンド結合亢進とCCR7シグナリング亢進を誘導する可能性が示唆された。本年度はヒトT細胞白血病細胞株を用いて詳細な解析をおこない、CXCR4シグナルが細胞遊走先端へのCCR7集積と局所的なリガンド結合亢進、およびCXCR4/CCR7へテロダイマーの形成亢進を誘導する事を明らかにした。このことからCXCR4シグナルは細胞膜上でCCR7に直接作用し、CCR7リガンド結合活性を促進させる可能性が考えられた。 2. CD44は、免疫細胞の血管内皮細胞への接着、がん細胞の血行性転移などに関与する接着分子である。リガンド結合型と非結合型の立体構造平衡がin vivoにおけるがん細胞動態に重要である可能性を検 討するため、CD44点突然変異体を遺伝子導入したヒト乳がん細胞株を獲得した。各がん細胞株を免疫不全マウスに投与し、in vivo イメージングにより非侵襲的に経過観察中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. ヒト乳癌MDA231細胞株ではCCR7過剰発現によりリンパ節転移能が上昇することから、CCR7はMDA231のリンパ節転移に関与する事が示唆された。昨年度の研究計画では、CCR7/CXCR4シグナリングがMDA231のリンパ節転移能決定に重要である可能性を検討するため、CXCR4およびCCR7遺伝子ノックダウン細胞の樹立およびin vivo でのリンパ節転移能の解析を計画していた。shRNA導入細胞株の樹立については、ヒト乳癌細胞株ではCXCR4 shRNA安定発現細胞株は得られたもののその低下率は約40%程度であり、コントロールshRNA導入細胞と比較してリンパ節転移能に大きな差はみられなかった。MDA231のリンパ節転移におけるCXCR4の重要性については、CXCR4遺伝子ノックダウンの効率が十分でない可能性が考えられるため、更なる検討が必要である。またCCR7shRNA安定導入細胞の樹立を試みたものの、効率よく発現ノックダウンされた細胞株は得られなかった。この原因として、親株であるMDA231細胞はもともとCCR7の発現が低いため、shRNAの効果が低いことが考えられた。 2. CXCR4 リガンド誘導性 CCR7 依存的細胞遊走亢進の分子メカニズムについては、ヒトT細胞白血病細胞株を用いた解析から詳細な分子機構の理解につながる結果を得る事ができた。特にCXCR4 結合分子が CCR7 ホモダイマーおよび CCR7/CXCR4 ヘテロダイマーの形成を誘導した結果、細胞において局所的なリガンド結合が促進され、CCR7 リガンド誘導性細胞遊走が亢進するメカニズムが考えられた。 3. CD44点突然変異体発現ヒト乳がん細胞株の転移能解析については、当初用いた細胞株が腹腔内播種しやすいため、安定した結果が得にくいという難点があった。この問題点は亜株を用いる事で解決された。
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今後の研究の推進方策 |
1. CXCR4 リガンド誘導性 CCR7 依存的細胞遊走亢進におけるCCR7/CXCR4 ヘテロダイマー形成の重要性が示唆された。本年度は、CXCR4/CCR7複合体形成の重要性と作用機序について解析をおこなう。予備的な実験では、CXCR4遺伝子ノックダウンによりCCR7のmRNA発現レベルは変化せず、抗CCR7抗体を用いたフローサイトメトリー解析で細胞膜上のCCR7検出レベルの低下が見られた。この結果は、CXCR4発現が細胞膜上のCCR7タンパク発現レベルあるいは抗体認識に関与する立体構造に影響する可能性を示唆する。この可能性を検討するため、複数の異なるエピトープを認識する抗CCR7抗体の反応性がCXCR4ノックダウンにより変化するか否かを解析する。またCXCR4遺伝子ノックダウンによりCCR7の細胞内局在、および細胞膜上での発現レベルが変化する可能性を検討するため、GFPタグを付加したCCR7分子の細胞内挙動を解析する。さらにCCR7シグナリングにおけるCXCR4発現の重要性を検討するため、CCR7シグナリング検出系としてすでに確立しているluciferase complementation assay (CCR7シグナルが誘導された場合にのみルシフェラーゼ分子が補完され、シグナルが検出されるシステム)を行い、CXCR4遺伝子ノックダウンの影響を解析する。 2. ヒト乳癌細胞株MCF7-f5-lucにCD44点突然変異体を導入し、樹立された遺伝子安定発現細胞株の転移能を解析する。これまでの生体イメージング解析から、MCF7-f5-luc細胞は免疫不全マウスへの同所移植において肝転移および肺転移することが明らかになった。CD44はMCF7の肝転移能を増強させるという文献的報告があることから、特に各CD44変異体が肝転移能の増強に影響する可能性を検討する。
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