• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2021 年度 実績報告書

ネットワーク解析による心理療法の高精細な作用機序の解明

計画研究

研究領域デジタル‐人間融合による精神の超高精細ケア:多種・大量・精密データ戦略の構築
研究課題/領域番号 21H05068
研究機関東洋大学

研究代表者

樫原 潤  東洋大学, 社会学部, 助教 (10788516)

研究分担者 国里 愛彦  専修大学, 人間科学部, 教授 (30613856)
菅原 大地  筑波大学, 人間系, 助教 (10826720)
研究期間 (年度) 2021-08-23 – 2024-03-31
キーワードネットワーク分析 / 認知行動療法 / Process-Based Therapy / うつ病 / 不安症 / 精神病理 / 心理療法 / 数理シミュレーション
研究実績の概要

「心理療法を受けた患者のデータに対して,数理統計学のネットワーク理論に基づく分析を適用し,精神病理のネットワーク構造や治療の作用機序を解明する」という研究課題のなかで,当該年度は,うつ病・不安症の個別症状間の相互作用を偏相関ネットワークとして視覚化して中核症状を特定することを目的とした研究に専従する計画であった。2021年度は,世界的な半導体の供給不足のために分析用ワークステーションの納入が遅れ,課題の次年度繰越を余儀なくされたが,2022年度は当初計画にあった分析をほぼ完了し,その成果を国際学会で発表することができた。また,患者データの分析を行う中で,「精神症状についての項目だけを用いて推定を行うと,ネットワーク構造の様相が理論と一部整合しないものになってしまう」ということが明らかになり,治療の作用機序変数も含めてネットワーク構造を検討することが必要であることが示唆された。このことを受け,海外で開発された作用機序変数の測定尺度の邦訳や,仮想の作用機序変数を組み込んだ数理シミュレーションなど,発展的な研究課題に着手することができた。
これらの研究進捗について,ボストン大学のTodd Farchione准教授に紹介したところ,将来的な共同研究の可能性を提示された。また,ワークステーションの納入を待つ間,分析済みのデータの論文化や先行研究のレビューに取り組んだところ,国内外の学術誌で合計3本の査読付き論文を発表することができた。さらに,国内学会での様々なシンポジウムで,研究班のビジョンを参加者と広く共有することができた。このように,データ分析が進んだだけでなく,論文業績が蓄積され,国内外の研究者とのつながりを様々な場で強化することもできたため,研究課題を今後よりいっそう発展させるための土台を築くことができたといえる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2021年度は,既存の患者データを用いた分析をまず行い,その結果を踏まえてその後の研究の段取りを具体化していくことを構想していた。ところが,その分析に必要なワークステーションの納入が大幅に遅れ,研究課題の次年度繰越を余儀なくされた。出だしから予期せぬ遅れを被ったことになるが,繰越年度の2022年度には,当初計画していた分析をあらかた終えることができた。また,分析を終えてみると,当初想定していた以上に研究上の示唆がもたらされ,作用機序変数の測定尺度の邦訳や,仮想の作用機序変数を組み込んだ数理シミュレーションなど,発展的な研究課題に着手することができた。特に,心理ネットワーク研究における数理シミュレーションは,どの国を見回してもまだ検討が進んでいない領域であり,この研究班が世界的な先駆けになったと評価できる。実際のところ,ボストン大学のTodd Farchione准教授と研究ミーティングの機会をもったところ,数理シミュレーションについて大きな関心が寄せられ,将来的な共同研究の可能性を打診されるまでに至っている。
また,「研究実績の概要」に示したように,ワークステーションの納入を待つ間に,これまでの研究成果を複数の論文という形にして発信することができた。こうした論文を発表することにより,研究班のなかで理論的基盤が整理され,実データのネットワーク分析や数理シミュレーションを今後さらに段取りよく進めていくための土台が整った。
このように,出だしこそ予期せぬ事態のために大幅な遅れを余儀なくされたものの,当初計画していた分析が無事にひと段落し,当初計画にはなかった研究案が具体化され,国内外の研究者との関係構築を進めることができた。査読付き論文を複数出版できたことも踏まえると,おおむね順調に研究が進展したと評価できる。

今後の研究の推進方策

当該年度に積み重ねた研究実績や協働関係を土台に,今後は作用機序変数の測定尺度の邦訳版を完成させ,その尺度を使用したオンライン調査を実施して新規にデータを収集し,そのデータを規定するネットワーク構造がどのようなものか推定により明らかにしていく。また,仮想の作用機序変数を組み込んだ数理シミュレーションを進展させて論文を執筆できる程度の分量にまとめ,学会発表なども積極的に行っていく。さらに,Todd Farchione准教授たちボストン大学との共同研究を本格化させ,大規模のオンライン心理療法データのネットワーク分析を進め,心理療法の作用機序を細部に至るまで明らかにしていく。「研究班で保有している,対面形式の心理療法で収集した患者データを分析する」という当初コンセプトに固執しすぎず,ネットワーク分析やシミュレーションの観点から心理療法の作用機序を明らかにするという大目標に合致するものであれば,積極的にマンパワーを投入していって,世界的に評価される知見を積み上げていく。
このほか,心理ネットワークアプローチの将来的な臨床応用を見越して,Process-Based Therapy (PBT) を日本で普及させるためのコミュニティづくりに注力し,PBTを題材とした学会シンポジウム等を開催し,論文執筆にも励んでいく。PBTとは,ネットワーク科学の発想や枠組みを借りた,一人ひとりの患者にあったテーラーメイドの治療を推進するためのアプローチであり,国内外の臨床家から大きな注目を集めている。このPBTを普及させ,ネットワーク科学の発想を臨床に取り入れる価値を示すとともに,心理ネットワーク分析を臨床応用するという将来のビジョンを示す。そうすることで,心理ネットワークアプローチへの注目度を国内で高め,新たな共同研究者を見つけ,いままでよりもさらに手厚い体制で研究課題を推進できるようにしていきたい。

  • 研究成果

    (18件)

すべて 2023 2022 2021 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件) 備考 (5件)

  • [雑誌論文] 心理ネットワークアプローチがもたらす「臨床革命」:認知行動療法の文脈に基づく展望2022

    • 著者名/発表者名
      樫原 潤・伊藤 正哉
    • 雑誌名

      認知行動療法研究

      巻: 48 ページ: 35~45

    • DOI

      10.24468/jjbct.20-015

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Classifying patients with depressive and anxiety disorders according to symptom network structures: A Gaussian graphical mixture model-based clustering2021

    • 著者名/発表者名
      Kashihara, J., Takebayashi, Y., Kunisato, Y., & Ito, M.
    • 雑誌名

      PLOS ONE

      巻: 16 ページ: e0256902

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0256902

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] マインドフルネス研究の未来を切り開く新たな方法論2021

    • 著者名/発表者名
      国里 愛彦・山本 哲也
    • 雑誌名

      心理学評論

      巻: 64 ページ: 599~618

    • DOI

      10.24602/sjpr.64.4_599

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Network Analysis on the Efficacy of the Unified Protocol for Transdiagnostic Treatment of Emotional Disorders: Exploring the Effects on the Individual Symptoms of Depression and Anxiety2023

    • 著者名/発表者名
      Kashihara, J., Takebayashi, Y., Kunisato, Y., Sugawara, D., & Ito, M.
    • 学会等名
      2023 International Convention of Psychological Science
    • 国際学会
  • [学会発表] 認知行動療法によってうつ・不安症状のネットワーク構造は変容するか? 統一プロトコルの臨床試験データの二次解析2022

    • 著者名/発表者名
      樫原 潤・竹林 由武・国里 愛彦・伊藤 正哉・菅原 大地
    • 学会等名
      第22回日本認知療法・認知行動療法学会
  • [学会発表] はじめてのオンライン心理学実験・調査:jsPsychとlab.jsを用いた作成2021

    • 著者名/発表者名
      小林 正法・国里 愛彦・大杉 尚之・西山 慧・紀ノ定 保礼・遠山 朝子
    • 学会等名
      日本心理学会第85回大会
  • [学会発表] 精神療法の作用メカニズムに対する計算論的アプローチ2021

    • 著者名/発表者名
      国里 愛彦
    • 学会等名
      第117回日本精神神経学会学術総会
  • [学会発表] 臨床研究の方法論と倫理(臨床実践における倫理を含む)2021

    • 著者名/発表者名
      国里 愛彦
    • 学会等名
      日本認知・行動療法学会第47回大会
  • [学会発表] 再現可能性問題2021

    • 著者名/発表者名
      国里 愛彦
    • 学会等名
      日本認知・行動療法学会第47回大会
  • [学会発表] データとマテリアルのオープン化による研究公正・共創の実現2021

    • 著者名/発表者名
      国里 愛彦
    • 学会等名
      日本認知・行動療法学会第47回大会
  • [学会発表] Personalized Psychological Flexibility Index 日本語版の開発2021

    • 著者名/発表者名
      山崎 智・土屋 政雄・国里 愛彦
    • 学会等名
      日本認知・行動療法学会第47回大会
  • [学会発表] 心理学ネットワーク解析を用いた内受容感覚と抑うつの関係の検討2021

    • 著者名/発表者名
      齋藤 裕希子・国里 愛彦
    • 学会等名
      日本認知・行動療法学会第47回大会
  • [学会発表] 社交不安と解釈バイアスの心理学的ネットワークの関連2021

    • 著者名/発表者名
      井上 圭右・国里 愛彦・中沢 仁
    • 学会等名
      日本認知・行動療法学会第47回大会
  • [備考] デジタル-人間融合による精神の超高精細ケア

    • URL

      https://uhd-mental-health-care.jp/

  • [備考] 樫原 潤 (Jun KASHIHARA) のホームページ

    • URL

      https://junkashihara.wixsite.com/psychology

  • [備考] note: Jun Kashihara (樫原 潤)

    • URL

      https://note.com/junkashihara

  • [備考] 国里愛彦 (YOSHIHIKO KUNISATO, Ph.D.)

    • URL

      https://kunisatolab.github.io/main/yoshihiko-kunisato.html

  • [備考] Propos sur le bonheur: Daichi Sugawara

    • URL

      https://sugardeichi.wixsite.com/sugawarahp

URL: 

公開日: 2023-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi