研究領域 | 糖鎖ケミカルノックインが拓く膜動態制御 |
研究課題/領域番号 |
21H05075
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
堀 雄一郎 九州大学, 理学研究院, 教授 (00444563)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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キーワード | タンパク質ラベル化 / PYP / 蛍光プローブ |
研究実績の概要 |
本研究では、膜タンパク質のエンドサイトーシスと分解を蛍光で捉えるpH応答性蛍光色変化プローブを開発した。膜タンパク質はエンドサイトーシスにより内在化すると、エンドソーム内のpHが低下する。この点を利用し、膜タンパク質をpH応答性蛍光色変化プローブでラベル化し、pH低下を蛍光色の変化として捉えることで、タンパク質の内在化の進行を可視化する。プローブは、PYPタグをラベル化するものとして、蛍光性PYPタグリガンドである7-ジメチルアミノクマリンとpH応答色素であるフルオレセインを連結させることで、クマリンからフルオレセインへのFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)効率がpHに応答して変化するように分子設計した。すなわち、中性ではFRETによりpH応答色素の緑色蛍光が観測され、pH低下によりフルオレセインが環化しその吸光度が低下するとFRET効率が低下するため、リガンドのシアン色蛍光が観測される。また、リガンドはPYP内部にあるときのみ蛍光を放つ性質を持つため、タンパク質が分解されると蛍光が消失する。この設計戦略のもと、プローブF5DMACを有機合成し、タンパク質のラベル化反応及び、ラベル化体のpH応答性、分解に伴う蛍光強度変化を調べた。F5DMACは、SDS-PAGEの結果からPYPタグをラベル化できることが示され、そのラベル化に伴い緑色蛍光の強度が増大することが示された。次に、pHの変化に伴い、ラベル化されたF5DNBの緑色蛍光は低下し、シアン色蛍光の強度が上昇した。最後に、タンパク質分解酵素をラベル化体に添加すると、プローブの蛍光強度の減少が観測された。以上の結果から、F5DNBは、タンパク質のラベル化、pH変化及び分解を検出できるマルチスイッチ型タンパク質イメージングプローブであることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、7-ヒドロキシクマリンをPYPタグリガンドとして用いる予定であった。過去の研究より、このリガンドは、蛍光を発しPYPタグ内部に結合しているときは、生理的なpH変化では蛍光強度は変化しないと予想された。一方、実際に、このリガンドを用いて、pHを変化させるとpHに応答して蛍光強度が変化した。目的とするプローブは、リガンドはpHに応答せず、色素部位のみpHに応答するものを用いる必要があったため、pH変化が起こらない別のリガンドに変更する必要が生じた。そこで、7-ジメチルアミノクマリンがPYPのリガンドとなることに着目し、今回そのリガンドを組み込んだプローブを合成した。予想した通り、7-ジメチルアミノクマリンは、pH依存性がほとんどなく、当初の目的としたプローブの開発に成功した。以上の結果から、分子の設計方針に変更はあったものの、おおむね順調に研究が進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上記プローブを用いた膜タンパク質のイメージングに展開していくとともに、膜タンパク質がいかにして糖鎖によって、その動態が制御されているかを明らかにする。具体的には、標的タンパク質をGLUT4として、GLUT4の糖鎖と相互作用するタンパク質を同定する。糖鎖は、GLUT4を細胞膜に引き留める役割を果たすことをこれまでの研究で示してきた。そこで、GLUT4をHRPでラベル化し、Proximity-dependent labelingを行い、近傍のタンパク質をビオチン化する。この手法を確立し、ビオチン化タンパク質を同定することで、GLUT4の糖鎖相互作用タンパク質を明らかにし、その生理的役割について調べる。
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