触媒反応開発において短寿命の不安定複合体の利用は忌避されたきた。これは、反応の進行に伴って複合体が分解などを起こし、収率低下につながるリスクが高いためであるが、そもそも不安定活性種を用いる触媒反応についての知見は十分に蓄積されているとは言い難い状況である。そこで本研究では、律速段階直前の不安定複合体に焦点を当て、複合体を高秩序かつ均一に生成させて反応を詳細に解析し、学術的な知見蓄積と反応設計原理の探求を進めることを目的とした。具体的には、有機分子触媒を用いるペプチドの環化反応を開発対象として、研究を進めることとした。 R4年度は、C、N両末端遊離の鎖状ペプチドのC末端、N末端にそれぞれ対応するアミノ酸をモデル基質としてアシル化反応を検討し、アシル化剤、アミン触媒、溶媒等が反応に与える影響を明らかにした。また、開発した不安定な活性種を用いる環状ペプチドの合成が予想以上に迅速かつ高収率で進行することがわかった。そこでR5年度は、より環化難度が高い基質を用いた環化反応に挑戦した。すなわち、具体的には、側鎖に遊離の水酸基を有する残基を含むペプチド、エピメリ化の危険性が高い残基をC末に含む鎖状ペプチド、二量化が進行しやすい鎖状ペプチドを標的として選定し、開発した手法の基質適用範囲の限界を探った。その結果、環化難度が高いことがわかっている4,5残基の環状N-メチル化ペプチドの合成に成功し、開発した環化反応は既存の手法と比べて明らかにエピメリ化や二量化を惹起しにくく、高速で目的の反応を進行させられるがわかった。
|