研究領域 | 革新的ナノテクノロジーによる脳分子探査 |
研究課題/領域番号 |
21H05090
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安楽 泰孝 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (60581585)
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研究分担者 |
中木戸 誠 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (80784511)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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キーワード | 高分子 / 脳 / ナノマシン / 抗体工学 |
研究実績の概要 |
我々は高分子集合体を薬物送達システム(DDS)とし、脳への薬剤輸送を著しく制限する血液脳関門(BBB)を既法と比べ約100倍効率良く通過させ、これまでに類のない多量の薬剤を脳へ送達することに成功している。本研究課題では、この高分子集合体(ナノマシン)を基盤技術とし、高分子化学、材料科学、蛋白質工学的観点からさらに洗練し、従来の薬剤を疾患部位に送り届けるDDSではなく、既存技術では着想もしない「①BBBを効率的に通過」し、「②脳分子を回収(サンプリング)」、さらには「血液中に帰還する(リエントリー)」ことで、脳分子情報を知らせる『はやぶさ型ナノマシン』を構築し、中枢神経系(CNS)疾患の革新的診断法へと展開し、脳内外の物質移動研究に新たな学術的視点をもたらすことを目的とする。また脳分子と脳機能・疾患との関連を精査するA02分子脳病態班と、独自の高感度分析技術を駆使したマルチオミックス解析により微量の脳内成分の同定を行うA03極限検出班と連携し、「脳分子探査」の研究基盤構築に貢献する。 そこで既に確立している①BBBを効率的に通過させる方法論に加えて、上記の②サンプリング、③リエントリーといった異なる機能を、ナノマシン/ナノマシンを形成する高分子に空間的に制御された形で配置した多機能型高分子を構築することで、本研究で目的とするナノマシンを開発する。当該年度は、『はやぶさ型ナノマシン』に必要な要素機能に分けて、それぞれの機能を有するナノマシン・高分子の調製・合成、抗体分子の調製などを実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画を前倒して、サンプリング型ナノマシンを構成する高分子合成、表層に血液中に戻るためのFc分子の大量調製、Fc分子のナノマシン表層への導入条件を検討し、下記の特筆すべき成果を得ることに成功した。 1) サンプリング型ナノマシンを構成する機能性ブロック共重合体の合成を開始した。全部で10STEP中、当該年度は7STEPまで完了した。それぞれのSTEPで1H-NMR, HPLCでそれぞれの構造や分散性について確認した。 2) はやぶさ型ナノマシンの部品で、血液中に戻る機能を有すると考えられるFcを抗体工学の技術を用いて調製した。具体的にはFcRnが認識するFc領域のみからなるここでは哺乳細胞発現系を用いてIgG1, 4由来のFc領域を作製し、ProteinAカラムおよびサイズ排除クロマトグラフィーによりいずれも高純度精製に成功したことを確認したが、同時にIgG4由来のFc領域がタンパク質として不安定であることを確認した。そこで、末端にCys残基を導入したコンストラクトを作製したところ、安定化することに成功した。 3) リエントリー型ナノマシンとして、IgG1, 4由来のFcを表層に導入したナノマシンの調製を行った。FcのDBCO基導入の最適化、導入の有無を紫外可視分光法で確認した。また当初の計画を前倒しし、直径100 nm程度のナノマシン(脳内で構造変化後のナノマシン)にFc-DBCOを添加し、ナノマシン表層にFcが導入されていることをHPLCで確認した。 4) A02分子脳病態班にナノマシンを供給し、うつ病モデル動物を用いた体内動体評価を実施した。またA03班極限検出班にナノマシンを形成する高分子を供給し、脳内に局在する高分子の検出の有無に関して検討を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に記述した様に、本研究は当初の計画通りに進展していると自己評価される。今後の研究についても、当初の計画通りに以下の内容で推進して行く。 1) サンプリング型ナノマシンを構成する機能性ブロック共重合体の合成を完了する。また合成した高分子を用いてナノマシンの構築・機能評価を開始する。具体的にはナノマシンの直径、構造などは動的光散乱測定(DLS)、透過型電子顕微鏡観察により評価する。また脳内環境を模倣した還元環境における構造変化はDLS、蛍光相関分光法(FCS)を用いて評価する。また脳間質液を用いて、間質液中における物質のサンプリング能をFCSやA03班極限検出班と共同で評価する。 2) IgG1, 4由来のFcとFcRnの相互作用を定量解析する系を確立する。具体的にはFcを認識するFc受容体(FcRn)とB2Mの複合体を哺乳細胞によって共発現させ、各種クロマトグラフィーで精製する。その後、SDS-PAGEによって純度を確認したのちに、表面プラズモン共鳴法などによってFc/もしくはFcを導入したナノマシンとFcRnとの相互作用解析を実施する。 3) リエントリー型ナノマシンは、Fc導入本数を制御したナノマシンを構築し、導入本数はFCS測定により算出する。構築した種々のFc導入本数を有するナノマシン(蛍光標識)を、脳脊髄液(CSF)中に局所投与し、脳実質から血流中への移行を蛍光検出器、in vivo CLSM等で評価し、IgG1, 4由来による動態の相違を明らかにする。
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