研究実績の概要 |
本研究では、スピルオーバー水素を使いこなすための学理(表面水素工学)構築と、革新的応用分野の開拓をターゲットに、『制御因子の解明』、『特殊合金ナノ粒子合成への応用』を第一の目的とした。 制御因子の解明では、酸化還元レドックス機構に基づきスピルオーバーが進行する金属酸化物を用いて検討したところ、TiO2、CeO2では表面のスピルオーバーが優先的に起こるのに対して、WO3では内部のスピルオーバーが優先的に起こることがわかった。また、酸化グラフェン(GO)において有利な水素スピルオーバー経路をH-D交換反応ならびに理論計算を用いて系統的に評価した。GOを空気焼成することで基底面にエーテル基を含む炭素欠陥が豊富に生成し,水素が容易に拡散可能になることがわかった。 特殊合金ナノ粒子合成への応用では、還元性担体であるCeO2上での水素スピルオーバーを利用することで還元電位の異なるCo2+, Ni2+, Cu2+, Zn2+, Pd2+イオンを同時還元し、ハイエントロピー合金(HEA)ナノ粒子を合成した。CeO2担体の形態制御に基づく露出結晶面制御により水素スピルオーバー特性が変化し、還元性の高い(110)面を優先的に露出したロッド状CeO2上では1 nm以下のHEAサブナノクラスターが形成した。NO還元反応にてCeO2ロッド上のHEAサブナノクラスターは最も高い活性を示し、単金属Pdナノ粒子触媒よりも飛躍的に活性が向上した。さらにこのサブナノクラスターはNO/H2流通下で単金属Pdナノ粒子とは異なる特異な酸化還元応答性に伴う可逆的な構造変化を示すことを見出した。
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