研究実績の概要 |
2023年度の研究では前年度に引き続き、水素のスピルオーバー現象を活用した新規触媒反応系の構築を試みた。固体酸触媒であるゼオライトの外表面にPdナノ粒子を固定した触媒を開発し、酸点とPd粒子間の水素移動を活用することで、この触媒がアルカンを直接用いる芳香族アルキル化反応に活性な触媒となることを見出した。これまでの研究で異なる触媒粒子間での水素スピルオーバーによって触媒反応の速度が向上することが明らかになっていたが、同一触媒粒子に二つの活性点を導入することで水素の移動距離が短縮され、反応効率がさらに向上することが明らかになった。さらに、ゼオライト中での原子状水素の安定性を領域内共同研究によるμSR測定で明らかにし、これらの成果を領域内研究者との共著論文としてACS Catalysis誌に投稿し、受理・掲載された(ACS Catal. 2023, 13, 12281)。また、この成果に関してプレスリリースを実施し(https://www.ynu.ac.jp/hus/koho/30639/detail.html)、合成洗剤などの前駆体となるアルキルベンゼンの新たな製造手法として公開した。加えて、分岐アルカンをアルキル化剤とする芳香族アルキル化反応(Catal. Today 2024, 425, 114363)および、固体表面でのスピオーバー水素を活用するRu-Snバイメタル粒子によるメタン脱水素カップリング反応(J. Phys. Chem. C 2023, 127, 15185)に関して投稿論文が受理・掲載された。さらに、ベンジルアルコールの電気化学的脱水素反応におけるNafion膜の効果に関する論文がChem. Lett.誌に掲載され、Editor’s Choiceに選ばれるとともにBack Coverにも採択された(Chem. Lett. 2023, 52, 560)。また、触媒粒子間の水素スピルオーバー現象による触媒作用の増強に関して、これまでの方向をまとめたレビューの執筆を実施した(Chem. Asian J. 2024, e202301083)。
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