研究領域 | 表面水素工学:スピルオーバー水素の活用と量子トンネル効果の検証 |
研究課題/領域番号 |
21H05101
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
日沼 洋陽 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (80648238)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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キーワード | 表面水素工学 |
研究実績の概要 |
5種類以上の金属元素から構成される高エントロピー合金(high entropy alloy, HEA)は、単体金属や二元系金属と異なり、独特の活性を持つことがある。HEA表面の特性を調べるために、解離吸着の可能性のある水素分子(H2)でなく、物理吸着することが確実な二酸化炭素分子(CO2)の吸着の様子を調べた。 等比率の5元素から構成される、面心立方構造(fcc)のHEAのモデルをランダムに60種選び、(111)表面の様々な位置にCO2分子を吸着させた。単体金属では金属原子直上のtopサイトや3つの原子から等間隔なhollowサイトへの吸着が見られるが、合金系ではこれらの高対称位置から大きく離れた場所での吸着が起きる。単体金属や二元系ではCO2分子の吸着エネルギーが-0.08eVを下回ることは殆どない。一方、一部のHEAでは-0.08eVを下回るCO2吸着サイトがあり、-0.2eV程度に達することがあり、HEAならではの高活性である。このような吸着サイトは一般的にtopサイトの近くで、CO2が表面に対し斜めに吸着する。 第一原理計算を用いたCO2吸着計算は決して計算コストが低くないものの、限られた数のHEAの活性スクリーニングに活用することができるため、よりコストが高い実験の能率を上げることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FY2022では「表面水素工学」のテーマから少し離れたものの、表面活性に関し、水素の活用に応用が考えられる新たな知見を得て、STAM Methods誌への掲載に至った。
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今後の研究の推進方策 |
領域代表者らは、低温で進行するHスピルオーバー現象に、Hの移動を容易にする量子トンネル効果が関与しているのではないかと仮定している。例えば、金属上でのH/D交換反応や、ゼオライトやヘテロポリ酸表面でのプロトンホッピングに量子トンネル効果の関与が指摘されている。このため、室温で量子トンネル効果が起きる系の探索を行う。用いる手法は、主に修正された遷移状態理論(Semi-classically-corrected Transition State Theory, STST)に基づくDFT計算であり、量子トンネル効果が支配的になるクロスオーバー温度(Tc)を求める。 身近な元素であるHが関わる化学反応に、事実上Hでのみ見られる量子トンネル効果がどのように関与しているかを理解することは、学術的な意義が極めて高い。熱力学的および反応速度論的制御に加え、量子トンネル効果を利用して化学反応が制御できる可能性があり、新しい反応パラダイムとして期待できる。2023年度は量子トンネル効果を室温以上で実現しうる系の探索と、Tcの増加、あるいは活性化障壁を低下させる手段を検討する。
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