研究実績の概要 |
本年度はグラフェン上の効果的な水素輸送制御に向けて、H原子の拡散を検討した。H原子はグラフェン面に垂直なH-C結合を形成する。第一原理計算によると、H-on-グラフェン系におけるHサイト間の拡散過程中の一つに、活性化障壁(Ea)がおよそ0.9eVの遷移状態(transition state, TS)が存在するが、このTSではHはCと非常に弱く結合している。加えて、HがCと強く結合したままの拡散過程があり、ここでは、Eaは1.0~1.2eVに増加する。後者のTSでは、HはH+の電子状態をとる。 H-on-グラフェン系を酸化して電子数を減らすとEaは減少する。仕事関数が大きいAuスラブ上にグラフェンを吸着させて酸化すると、結合状態を経由するEaは0.8eVに減少する。H-on-グラフェン系の電子数が減ると、安定状態でもHの価数が少し正となる。Hの拡散時に「一時的にHから電子をグラフェンに移す」コストが低くなるため、Eaの低下が起きると考えられる。一方、グラフェンを仕事関数が小さい物質に吸着させて還元すると、Eaが高くなる。 このように、担体の仕事関数を変えることで、グラフェン上でのHの拡散を制御する指針が得られた。 なお、量子トンネル効果の遷移温度はH-on-グラフェン系では室温程度であり、系を酸化すると遷移温度が下がり、還元すると上がる。このため、活性化障壁の低下と室温量子トンネル効果の顕著な発現は、残念ながら両立しない。
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