本研究では、生体内を動き回る細胞がどのようにして機能的な構造を形成するかの問いに答えるために、細胞が創発する群知能という視点から現象を理解することを目指している。ショウジョウバエの変態期に起こる筋肉リモデリング過程では、古い筋繊維が一旦バラバラになって再集合し、新しい筋繊維に寄与していることが研究代表者の独自の実験結果によって示唆されていた。一見バラバラに動き回る筋断片は徐々にスピードを落としながら1日半ほど動き回り、いつの間にか網目状のパターンに配置する。このパターンを細胞が自己組織化的に作り出す原理の解明には、まずは個々の細胞の動きを詳細に解析することが重要である。そこで、細胞のトラッキングデータに基づいて、近傍の細胞が協調的に動いていることを定量的に解析する手法を確立し、その内容をまとめた論文を発表した。今年度は、細胞の蛍光シグナルの時間的な差分をとることによって細胞移動の速度を定量するより簡便な手法を確立した。また、自己駆動粒子系の形態形成を理解するために、「ヘテロ群知能」研究計画班A01の加納との共同研究により構築を行っている数理モデルについて、複数種の細胞を組み込むことで異なる細胞間の相互作用の影響を評価した。その結果、大きさの異なる複数種の細胞が存在することで秩序正しい細胞の配置を比較的に容易に実現することができることが予測された。そこで、文献検索の結果に基づき、大小2種類の細胞を同定し、それぞれを遺伝学的手法によって蛍光標識して可視化することに成功した。ライブイメージングを行うことにより両者の動態を観察し、上述した手法によって細胞の配置パターンと速度を定量化した。シミュレーションの結果と比較することにより、細胞配置のパターンの明確化には、細胞集団が空間的制限を受けることの寄与が大きいことを明らかにした。現在、本成果の論文投稿準備中である。
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