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2022 年度 実績報告書

生物種の分類枠組みを超えた網羅解析による多元応答深化の解明

計画研究

研究領域核酸構造による生物種を超えた多元応答ゲノムの機構の解明
研究課題/領域番号 21H05108
研究機関甲南大学

研究代表者

遠藤 玉樹  甲南大学, 先端生命工学研究所, 准教授 (90550236)

研究分担者 凌 一葦  新潟大学, 研究推進機構, 助教 (70804540)
研究期間 (年度) 2021-08-23 – 2024-03-31
キーワード多元応答深化 / 核酸構造 / 環境応答 / バイオインフォマティクス / オミクス解析
研究実績の概要

2021年度に、微粒子上にDNAのライブラリを固定化し、グアニン四重らせん(G4)構造のプローブとなる分子の蛍光シグナルでG4構造を形成するDNAを取得する手法を確立した。2022年度は、枯草菌のゲノムDNAからG4構造を形成する配列を実験的に取得し、ゲノムデータベースから網羅的に抽出されたG4構造の形成可能配列(G4候補配列)との比較解析を行った。細胞内の分子環境を特徴づける分子クラウディング環境中でG4構造を形成する配列を取得した結果、3枚のG-カルテットからなるG4候補配列のほとんどが、実験的にもG4構造を形成する配列として獲得された。この結果は、分子クラウディング環境中では、ほとんどのG4候補配列が実際にG4構造を形成し得ることを示している。この成果にもとづき、カリウムイオン濃度や分子クラウディングを誘起する共存溶質の濃度を変化させた際に構造変化を示すG4構造を実験的に解析することができるようになる。
2022年度はさらに、タンパク質との結合に重要な役割を果たすG4構造を明らかにすることができた。ヒトのラミニン遺伝子のmRNAのイントロン領域に存在するRNAが、カリウム濃度に依存してG4構造を形成し、新型コロナウイルスの複製を担うタンパク質の活性を抑制できることを示した(Chem. Commun., 59, 872 (2023))。国際共同研究成果としても、イネの細胞内に存在する短鎖のRNAの存在を明らかにした。そして、このRNAが外気温上昇にともない構造を変化させ、イネの生長に関与する遺伝子(高親和性硝酸トランスポーターOsNRT2.3)の発現を抑制して成長阻害を引き起こす可能性を見出した(Sci. Adv., 8, eadc9785 (2022))。本研究成果はA02班との共同研究でもあり、植物における「多元応答」の存在を示す重要な知見である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

G4構造を形成する配列をゲノム断片のライブラリから実験的にかつ網羅的に取得する技術を確立することができた。そのため、分子環境に対して多元的に応答して構造を変化させ得るG4構造領域を抽出することが可能となった。3枚のG-カルテットから構成されるG4候補配列のほとんどが分子クラウディング環境で取得されてきたことから、希薄溶液中では不安定な2枚のカルテットから形成されるG4構造にも焦点を当てて解析をしていくことの重要性も浮かび上がってきている。適度に不安定なG4構造は、細胞内のカリウム濃度などに敏感に応答して遺伝子発現に影響する可能性が考えられる。既にバイオインフォマティクス解析により2枚のG-カルテットから構成されるG4候補配列の網羅的な抽出が終了しており、実験的に取得された配列との比較解析ができる状態になっている。
2022年度はさらに、タンパク質への結合とタンパク質機能の変動に重要な役割を果たすG4構造を明らかにすることができた。カリウム濃度に応答してタンパク質機能が抑制される結果を得たことで、本研究領域で想定している「多元応答」を引き起こす要因としてのG4構造の重要性を示すことができた。
A01班との連携による国際共同研究の成果としても、植物の「多元応答」を引き起こし得る、外気温に依存したRNAの構造変化による遺伝子発現の変動を見出すことができた。本研究成果は、イネ(植物)における「多元応答」に関与する核酸構造の存在を示す重要な知見である。
以上の様に、遺伝子発現の「多元応答」を引き起こし得る核酸構造に関して、網羅的な解析研究の技術基盤を確立できただけでなく、個別の核酸構造を用いた検証での成果も出ている。そのため、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。

今後の研究の推進方策

現在まで、分子クラウディング環境やカリウム濃度に対して安定性の変動を示すG4構造を中心に解析を進めてきた。G4構造については、網羅的な解析技術が確立されたことから、溶液環境を様々に変動させて構造変化を示す配列領域の網羅的な抽出を進めていく。特に、2枚のカルテットからなるG4候補配列、および、相補鎖が存在する状態でもG4構造を形成し得る配列領域に焦点をあてて実験的に配列を抽出して解析を進めていく。
その他の核酸構造についても遺伝子発現の「多元応答」に寄与する可能性を検証する。一例として、シトシンに富んだ配列から形成される四重らせん構造であるi-motif構造について、ゲノム配列から構造形成領域の網羅的な抽出を行う。i-motif構造は酸性条件下で安定化することが知られるため、溶液のpHを変化させた際に構造の変動を示す領域を抽出し、A02班との連携で物理化学的な解析を進める。
G4構造、i-motif構造共に、得られる解析結果は統括班との連携でデータベースへの登録を行い、公開することを目指す。また、データベース構築の過程で、生物種間で同一の遺伝子ファミリーに存在しているG4構造、i-motif構造の比較を行い、「多元応答」を引き起こし得る核酸構造の保存性を解析することも進める。
RNAの構造としては、高次構造中に頻繁にみられるシュードノット(PK)構造に関して、希薄な溶液環境中ではその二次構造中の配列から熱安定性予測が可能であることを示す成果を既に得ている。そのため、生体内を考慮した分子環境での解析を進め、PK構造の多元的な構造変化に寄与する生体内の物理化学的要因を明らかにする。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] Nanjing Agricultural University/Sun Yat-sen University(中国)

    • 国名
      中国
    • 外国機関名
      Nanjing Agricultural University/Sun Yat-sen University
  • [雑誌論文] Endogenous G-quadruplex-forming RNAs inhibit the activity of SARS-CoV-2 RNA polymerase2023

    • 著者名/発表者名
      Endoh Tamaki、Takahashi Shuntaro、Sugimoto Naoki
    • 雑誌名

      Chemical Communications

      巻: 59 ページ: 872~875

    • DOI

      10.1039/D2CC05858H

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Cladogenetic Orthogonal Light-Up Aptamers for Simultaneous Detection of Multiple Small Molecules in Cells2022

    • 著者名/発表者名
      Endoh Tamaki、Tan Jia-Heng、Chen Shuo-Bin、Sugimoto Naoki
    • 雑誌名

      Analytical Chemistry

      巻: 95 ページ: 976~985

    • DOI

      10.1021/acs.analchem.2c03598

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] High-temperature adaptation of an OsNRT2.3 allele is thermoregulated by small RNAs2022

    • 著者名/発表者名
      Zhang Yong、Tateishi-Karimata Hisae、Endoh Tamaki、Jin Qiongli、Li Kexin、Fan Xiaoru、Ma Yingjun、Gao Limin、Lu Haiyan、Wang Zhiye、Cho Art E.、Yao Xuefeng、Liu Chunming、Sugimoto Naoki、Guo Shiwei、Fu Xiangdong、Shen Qirong、Xu Guohua、Herrera-Estrella Luis Rafael、Fan Xiaorong
    • 雑誌名

      Science Advances

      巻: 8 ページ: eadc9785

    • DOI

      10.1126/sciadv.adc9785

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Applicability of the nearest-neighbour model for pseudoknot RNAs2022

    • 著者名/発表者名
      Satpathi Sagar、Endoh Tamaki、Sugimoto Naoki
    • 雑誌名

      Chemical Communications

      巻: 58 ページ: 5952~5955

    • DOI

      10.1039/D1CC07094K

    • 査読あり
  • [学会発表] シグナリングライトアップアプタマーによる同一細胞内における複数化合物の多色検出2023

    • 著者名/発表者名
      遠藤 玉樹、Jia-Heng Tan、Shuo-Bin Chen、杉本 直己
    • 学会等名
      日本化学会第103回春季年会
  • [学会発表] RNAシュードノット構造の安定性予測のための最近接塩基対モデルの検証2022

    • 著者名/発表者名
      遠藤玉樹, Sagar Satpathi, 杉本直己
    • 学会等名
      第16回バイオ関連化学シンポジウム
  • [学会発表] Fluorometric detection of multiple small molecules using orthogonal light-up signaling aptamers in cells2022

    • 著者名/発表者名
      T. Endoh, J.-H. Tan, S.-B. Chen, N. Sugimoto
    • 学会等名
      第49回国際核酸化学シンポジウム
    • 国際学会
  • [学会発表] 環境応答性を示す非二重らせん核酸構造のスクリーニング法の構築2022

    • 著者名/発表者名
      遠藤 玉樹, 奥田 修二郎, 凌 一葦, 建石 寿枝, 杉本 直己
    • 学会等名
      第95回日本生化学会大会
  • [図書] Effects of Molecular Crowding on Structures and Functions of Nucleic Acids. In: Sugimoto, N. (eds) Handbook of Chemical Biology of Nucleic Acids.2023

    • 著者名/発表者名
      Endoh, T., Tateishi-Karimata, H., Sugimoto, N.
    • 総ページ数
      45
    • 出版者
      Springer, Singapore
  • [備考] 甲南大学先端生命工学研究所ホームページ

    • URL

      https://www.konan-fiber.jp/index.php

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公開日: 2023-12-25  

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