研究実績の概要 |
本領域研究では、多様な生物種における核酸の非二重らせん構造を網羅的に解析し、核酸構造に制御されるゲノムの多元的な発現機構(多元応答ゲノム機構)を解明する。そのため、本計画研究(A02班)では、下記の研究を推進する。 [1] 細胞内の核酸構造を定量的に解析するため、実細胞のタンパク質などを用いて究極の細胞内環境評価系を構築する(模する研究)。[2] ヒト、植物、菌類など様々な生物種の細胞内における核酸構造を解析し、得られたデータをフィードバックして細胞内環境評価系を最適化する(磨く研究)。[3] 様々な生物種の核酸“構造”情報を集約したデータバンクを構築する(創る研究)。このデータバンクにA01班、A03班に解析されたトランスクリプトーム解析等を組み込み、ゲノムの高次情報として遺伝子発現を制御し得る配列を予測できる多元応答ゲノムバンク(DiR-GB)を創製することを目指す。 2021年度は、模する研究として、実細胞内の環境を中性高分子や有機金属錯体(MOF)によって模倣した実験系を構築することを試みた。まず、中性高分子によって細胞内環境の生体分子で込み合った分子クラウディング環境下を構築し、分子クラウディング環境下における多元応答を示す核酸構造の挙動を解析し、核酸構造に及ぼす周辺環境の重要性を示した(Chem. Commun., 58, 48 (2021), RSC Adv., 11, 37205 (2021))。さらに、細胞小器官などの細胞内の特殊な空間を模倣するため、MOFの形態や物性を制御する技術を開発した(CrystEngComm, 23, 8498 (2021))。さらに、多元応答を示す核酸構造であるG四重らせん構造が遺伝子発現機構に及ぼす影響についても解析し、核酸構造の重要性を示した(J. Am. Chem. Soc., 143, 16458 (2021))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本領域研究では、核酸の構造を介した遺伝子発現機構「多元応答ゲノム」機構を明らかにすることを目的とする。そのために、A02班では、核酸構造の環境に応じたエネルギーパラメータを収集し、核酸の構造変化機構を解明し、核酸構造を予測できるデータバンクの構築を担当する。そのために、本年度は中性高分子やタンパク質などを用いた細胞内環境評価系において、物理化学的手法により非二重らせん構造の形成機構を明らかにできた(Chem. Commun., 58, 48 (2921), RSC Adv., 11, 37205 (2021))。また細胞内の分子環境(空間や物性)による効果を厳密に評価するためには核酸周辺の空間を厳密に制御する必要がある。そこで、ナノ材料として使われているMOFや核酸ナノ構造などを用いて、細胞内空間を模倣した細胞内環境評価系の構築を試みる。まず、本年度は、細胞内空間を厳密に再現することを目指して、MOFの形態や物性を制御する技術や(CrystEngComm, 23, 8498 (2021))、高分子ポリマーを任意の空間に塗布する技術を開発することができた(RSC Adv., 12, 3716 (2022))。 さらに、多元応答を示す核酸構造であるG四重らせん構造が細胞内のイオン濃度変化に応じて遺伝子発現機構を制御する機構(国際シンポジウムG4 webinar series Round VI、Pacifichem2021などで招待講演)や、複製機構に及ぼす影響を明らかにすることができた(J. Am. Chem. Soc., 143, 16458 (2021))。
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