研究実績の概要 |
本領域研究では、核酸の構造を介した遺伝子発現機構「多元応答ゲノム」機構を明らかにする。そのために、A02班では、環境に応じた核酸構造変化機構を解明し、核酸構造を予測できるデータベースの構築を担当する。2022年度は、細胞内における核酸の構造を簡便に解析するために、実細胞を用いて試験管内で細胞内の分子環境を再現できる細胞内分子環境評価系を開発し、開発した評価系での核酸構造の挙動は、細胞内での挙動と一致していることを見出した(特願2022-189538)。また、細胞内を模倣した分子環境がG四重らせん構造の形態を変化させることを見出した(Chem. Commun., 58, 12459 (2022))。これらの知見をもとに、G四重らせん構造を安定化し、遺伝子発現を制御する小分子を開発した(Chem. Commun., 59, 4891 (2023),日本核酸医薬学会第7回年会(2022年)で発表)。また、金属有機構造体を細胞内の空間模倣系として活用するため、金属有機構造体と細胞の相互作用を解析した(ACS Appl. Mater. Interfaces, 14, 34443 (2022))。 さらに、国際共同研究として、イネ成長に関わる遺伝子の発現を制御する新規のsRNAを見出し、生育温度に依存してsRNAの構造変化がsRNAとmRNAの結合を制御し、イネの制御が制御されていることを見出した(Science Advances, 8, eadc9785 (2022))。本研究成果は、ヒト以外においても、多元応答機構が成立していることを示唆する重要な知見である。 これらの研究成果は、国内学会や国際学会で招待講演として発表し(India|EMBO Lecture Course: Functional nucleic acids, 2022年8月)、研究成果の迅速な発信を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、細胞内の分子環境が核酸構造に及ぼす影響の重要性に注目し、試験管内で迅速かつ正確に核酸構造を解析するため、細胞内分子環境評価系の開発に注力した。その結果、開発した評価系では、試験管内では再現できなかった核酸の構造を再現することができた(特願2022-189538)。次年度には、本評価系を用いて、核酸構造や構造を制御する機能性分子の網羅的解析が可能となると期待できる。また、海外の共同研究者とも連携を強化し、例えば、中国南京大学のX. Fan教授らとはRNAの構造解析(Science Advances, 8, eadc9785 (2022))、スロベニア国立NMRセンターのJ. Plavec教授らとはDNAの構造解析(日本化学会第103回春季年会、2022年3月)を行い、植物やヒト細胞に近い環境下での核酸の構造に関する情報を得ることができた。これらのこれらの知見を基にして、試験管内およびヒトのがん細胞内の核酸構造の制御機構を見出すことができた(Chem. Commun.,58, 12459 (2022), Chem. Commun.,59, 4891(2023))。 本領域研究を推進するにあたり、合成核酸、細胞培養試薬等の実験消耗品を購入し、実験補助を行う研究員およびパートタイムのスタッフを各1名雇用し、本研究が円滑に進むように努めた。そのため、本研究は、おおむね順調に進展している。
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