計画研究
【概要】本研究領域では、多元的アウトプットとして現れる複雑な生理作用を、分子(寿野班)、細胞(井上班)、個体(櫻井班)、制御(斉藤班)といった次元に分解して検証し、分子、細胞、個体各スケールにおける「素過程」の重ね合わせの形にて記述・可視化を実現する。寿野班は分子フェーズを担当し、オピオイド受容体(κ、δオピオイド受容体(KOR、DOR))を介したシグナル伝達機構の全貌をX線結晶構造解析およびクライオ電子顕微鏡の単粒子解析(Cryo-electron microscopy single particle analysis : Cryo-EM SPA)によって原子分解能レベルで明らかにする。【目的】バイアス型リガンド結合型KOR/DORのX線結晶構造解析によるシグナル選択性の解明、KOR/DORとシグナル伝達因子複合体の構造解析によるシグナル伝達機構全貌の解明、ケージ技術とCryo-EM SPAを融合した迅速構造決定プラットフォームの開発を目指す。【研究成果】 本年度は、X線結晶構造解析のためのコンストラクト作製、発現、精製と、Cryo-EM SPAのためのKOR,DORとGタンパク質の複合体形成条件を検討し、それぞれGタンパク質選択的作動薬、バランスド作動薬存在下で安定な複合体を得ることができた。複合体について200kVの電子顕微鏡でスクリーニングし、DORの選択的リガンド結合状態では200kVのクライオ電子顕微鏡単粒子解析(Cryo-EM SPA)により約4A分解能での構造決定に成功するとともに、作動薬の電子マップも確認した。KORについても選択的リガンドでは300kVのCryo-EM SPAにより約3.8A分解能での電子マップが得られたが異方性の問題があり、構造決定には至らなかった。このように本プロジェクトの目的のサンプルの調製に成功し、一部構造決定に成功しているので順調に研究が進展している。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の研究期間は10月開始なので半年間であるため、当初の予定は複合体の発現、精製の条件検討であったが、研究開始から半年で低分解能ながらCryo-EM SPAによって目的のサンプルの一つの構造が決定できたことは予想以上の進展である。報告者はX線結晶構造解析の経験が豊富である一方、Cryo-EM SPAでの構造決定は少ないため2つの技術を用いてKOR,DORのGタンパク質選択作動薬の作用機序を解明することを目的としたが、予想に反してCryo-EM SPAでの研究が大きく進展した。
「現在までの進捗状況」にも記載したが、当初の目的はX線結晶構造解析とCryo-EM SPAの2つの技術で目的を達成する予定であった。しかし、すでに一つ構造決定に成功しておりCryo-EM SPAが非常に有効であるため、今後はCryo-EM SPAに集中して目的のすべての複合体構造を決定する方針に変更する。200kVで構造決定できたDORサンプルについて300kVのクライオ電子顕微鏡でより高分解能データの取得を目指す。DORについてはリガンドを変更したものについても同様に構造決定を目指す。KORについては異方性の問題をバッファー及びコンストラクトの条件検討での改善を目指している。決定した構造情報は領域の他のグループと共有し、その作用機序を多角的に評価する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
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