研究領域 | 炎症性組織レジリエンスと組織障害エントロピーの統合的理解と炎症収束学の創成 |
研究課題/領域番号 |
21H05121
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
平原 潔 千葉大学, 大学院医学研究院, 准教授 (00707193)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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キーワード | 炎症組織記憶 / 組織常在性記憶CD4+ T細胞 / 神経-炎症性組織レジリエンス連関 / iBALT / Proof of concept |
研究実績の概要 |
組織常在性記憶CD4+ T細胞が、肺の炎症記憶を制御し組織障害エントロピーの一端を担う細胞集団であることが示唆されるが、組織常在性記憶CD4+ T細胞の分化・維持に関する分子機構は、現在のところ全く不明である。そこで、本計画研究では、炎症記憶の制御機構を解明し、慢性気道炎症疾患の再燃や増悪のリスクを増加させる“組織障害エントロピー”の一端を明らかにするために、組織常在性記憶CD4+ T細胞の分化・維持機構に焦点をあて、1細胞レベル、クロマチンレベルおよび生体レベルの解析、患者での解析を進める。 今年度は、炎症記憶の制御方法の一環として、アレルギー性気道炎症反応を誘導したマウスに寄生虫が分泌するタンパク質の一種であるアスカロシドを投与すると、肺での炎症反応や気道過敏性が抑制することを明らかにした(Shinoda K, Proc. Natl. Acad. Sci., 2022)。興味深いことに、炎症記憶の中心をなす細胞の一種である病原性免疫記憶Th2細胞の数を特異的に減少させることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)我々は線虫から分泌される低分子アスカロシドが、IL-33刺激によって誘導される病原性記憶Th2細胞の増殖を抑制することで、マウスにおけるアレルギー性気道炎症反応を抑制することを明らかにした(Shinoda K, Proc. Natl. Acad. Sci., 2022)。このことはアスカロシドによる炎症記憶を制御できる可能性が示唆されており、学術的価値は高い。またこれは、当初の計画にはなく想定を超える進展であり、期待以上の研究成果であった。 (2)我々は、「神経-免疫連関」の分子機構を解析する目的で組織常在性記憶CD4+ T細胞を用いてsingle cell RNA-Seqを行った。その結果、神経伸長を誘導する新たな新規機能分子の同定を目指し、解析を行なっている。現在その成果は、論文としてまとめており近日中に投稿予定である。 (3)ヒト検体によるPOCの目的で、慢性好酸球性副鼻腔炎患者の検体、好酸球性食道炎患者の食道粘膜生検検体、春期カタル患者の巨大乳頭検体の解析を進めている。 以上、着実な研究進展が認められており、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1. 組織障害エントロピーの原因となる炎症記憶の形成機構の解明 引き続き、組織常在性記憶CD4+ T細胞が長期間にわたって肺内に常在する機能を獲得する機序の解析を行う。研究代表者が作成・入手した遺伝子“X”欠損マウス、遺伝子X-レポーターマウスを用いて、FACS、多重染色法と共焦点レーザー顕微鏡、conventional RNA-Seqを行う。さらに、遺伝子Xの網羅的な遺伝子結合様式及びそれに伴うクロマチン修飾の変化を各種ChIP-Seq、ATAC-Seqを組み合わせて解析し、組織常在性記憶CD4+ T細胞のレギュロームマップを作成する。また、組織常在性記憶CD4+ T細胞の組織障害エントロピーを規定する新規機能分子を同定する目的で、single cell RNA-Seqによる1細胞レベルでの網羅的遺伝子発現解析を行う。
2.1細胞レベルでの網羅的解析を用いた「免疫-神経系」による組織障害エントロピーの解明 これまで、我々は、神経伸長が誘導された組織由来の組織常在性記憶CD4+ T細胞を用いてsingle cell RNA-Seqを行い、神経伸長を誘導する新たな新規機能分子の同定を目指し、解析を行なってきた。現在、いくつかの候補分子を同定することができている。今後、同候補分子に対する阻害薬や遺伝子欠損マウスを用いて機能解析を進める。
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