申請者は脳内を遊走するニューロンを用いた研究から、柔軟な細胞核に加わる圧刺激が細胞核移動やDNA損傷・修復という複数の異なる細胞機能に関与することを見出した。しかしながら、脳内の圧刺激が組織・細胞によってどのように検知され、神経ネットワーク形成の基盤となる神経幹細胞分化や細胞移動に影響するのかは明らかでない。神経幹細胞は、脳脊髄液に満たされた脳室に面した脳室帯に存在するため、脳脊髄液に由来する水圧が圧刺激の要因となることが予想される。そこで本研究では、脳室帯を含む神経上皮組織に着目し、脳発生期における脳内の圧刺激が神経幹細胞分化に影響するかを明らかにする。 申請者は、神経上皮組織が脳脊髄液由来の圧力を組織の伸展率に変換することで、圧力の変化として検知している可能性を考えている。この可能性を検証するため、独自の圧刺激付与デバイスを作製した。さらに、作製したデバイス上で神経上皮組織を培養し、顕微鏡下で上皮細胞の頂端面の動態が観察可能であることを確認した。本年度は、神経上皮組織を培養しつつ圧刺激による神経上皮組織の伸展開実験を実施した。他方、 神経上皮組織内で神経幹細胞は混み合った状態にあり、一般的に未分化な幹細胞がもつ細胞核は特に柔軟であるため、頂端面に平行な方向に起こる対称分裂など により周辺の神経幹細胞がもつ細胞核は大きな圧刺激を受けると予想される。昨年度、森松班と共同で作製した細胞核に加わる機械的な力を定量するためのセンサーを培養神経細胞で用いたところ、細胞内張力の変化に応じた細胞核への機械的な力の付与を検出できることが分かった。
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