研究領域 | 時間タンパク質学:時を生み出すタンパク質特性 |
研究課題/領域番号 |
21H05132
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
向山 厚 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 助教 (80647446)
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研究分担者 |
八木田 和弘 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90324920)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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キーワード | 概日時計 / 時計タンパク質 / KaiCホモログ / ATPase |
研究実績の概要 |
シアノバクテリアSynechococcus elongatusの概日時計システムにおいては、KaiCただ一種の時計タンパク質の中に24時間周期に相当する周波数特性がエンコードされ、それが高次の階層へと伝播されることによって細胞レベルのリズムの周波数や温度補償性が実現される。哺乳類の概日時計においてもKaiCに相当する計時因子の存在が議論されているが、哺乳類にはKaiCが保存されていないこともあり、未だその実体は掴めていない。本研究は哺乳類の概日時計における周波数特性を備えた計時因子の探索を目的に、KaiCと機能的に類似のタンパク質を同定するスクリーニング系の確立を目指している。本年度は変異体およびならびに他種原核生物由来KaiCの機能解析により計時機能発現に重要となるKaiCの機能・構造に関する理解を進めた。KaiCの変異体解析では、概日リズムの源振動となる分子内アロステリ―の構造基盤を明らかにした。他種KaiCの機能解析の結果から、計時機能発現とATP加水分解反応(ATPase)の触媒効率や温度依存性との間に明確な関連が存在することを見出した。 また、哺乳類の概日時計形成は胎児期に進行することが知られているが、マウスの発生過程において体節形成が行われる発生前半では概日時計の形成が抑制されており、異所的な概日時計因子CLOCK, BMAL1の発現が分節時計の発振機構に干渉し、体節形成を阻害することを明らかにした(Umemura et al, PNAS, 2022)。このような異なる周波数特性をもつリズム同士の相互影響については不明な点が多かったが、本研究結果から、細胞の時間秩序を規定する周波数の創出機構は、生命にとって重要な意義がある可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
KaiCとのアミノ酸配列の相同性に基づく哺乳類における計時因子の探索は見込めない中で、概日リズムを駆動するのに重要なKaiCの機能・構造特性を明らかにし、探索の指針となる重要な知見が得られたことは大きな進展だといえる。一方、未だKaiCをピックアップするスクリーニング系の整備が完了していないことなどから、「おおむね順調に進展している。」との評価が妥当であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はATPase反応の触媒効率、温度依存性を指標に夾雑環境下から計時機能を備えるKaiCを検出するスクリーニング系を確立する。多種のヌクレオチド非結合性タンパク質を混ぜ合わせた系、多種のヌクレオチド結合性タンパク質を混ぜ合わせた系、大腸菌の細胞抽出液を用いた夾雑環境下からKaiCを拾い上げることができるかで、スクリーニング系の性能を評価する。また、哺乳類(マウス)の胎児組織やES細胞等を用い、概日時計のリズム発振成立過程に着目し、周波数特性の表出の背後にある物質的基盤の解明に向けた実験系の構築およびスクリーニング系を活用した候補因子の探索を進める。
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