本研究課題は概日時計を持つ最も単純な生物の一つであるシアノバクテリアにおいて、24時間に相当する周波数特性を備えた時計タンパク質KaiCの概日時間生成メカニズムの理解、およびそこから得られた知見に基づいて哺乳類を含む他生物種における概日周波数を生み出す因子(機能的KaiCホモログ)を探索し、同定するための要素技術の開発である。 本年度、研究代表者(向山)はヒトの腸内に生息し、約24時間周期の生体リズムを示す細菌を対象に、KaiCに類似の酵素特性を備えたタンパク質を探索した。KaiCはATPを加水分解する機能(ATPase)と、リン酸化・脱リン酸化する機能を備え、特に一日にたった十数個のATPしか分解しない極めて低いATPase活性が概日時計の周期の長さを規定する上で重要である。そこで、ATPase、リン酸化(もしくは脱リン酸化)活性を持つ酵素を、大腸菌による発現、クロマトグラフィーを用いた単離・精製を行い、機能解析を進めた。 研究分担者(八木田)は、哺乳類(マウス)の胎児組織やES細胞等を用い、周波数特性の表出の背後にある物質的基盤の解明を目指している。本年度は、ES細胞の分化誘導に伴う概日時計のリズム発振成立過程に焦点を当て候補因子の質量分析によるスクリーニングを進めるとともに、概日振動の形成プロセスにおける時計タンパク質複合体の動態の解明と、複合体形成制御に関与する因子を体系的に探索した。
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