研究領域 | 大規模計測・シミュレーションによる脳の全体性の理解 |
研究課題/領域番号 |
21H05136
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
堤 新一郎 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 副チームリーダー (20862676)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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キーワード | 前頭前野 / 大規模2光子イメージング / 精神疾患 / 認知機能 / 転移学習 |
研究実績の概要 |
1.大脳小脳大規模2光子イメージング:前頭前野皮質において、1.27 x 1.27 mm視野の2光子カルシウムイメージング法を確立し、2か月間にわたって1,000個以上の細胞活動を計測することに成功した。この技術を用い、認知タスク中の前頭前野神経細胞の慢性記録を行った。予備的な解析で、認知学習早期では前頭前野神経細胞の活動によりタスク情報をデコードできるが、学習終期ではデコードできない、すなわち前頭前野神経細胞の活動が学習の早期に重要であることが示唆された。 2.複数の認知タスクと転移学習:遅延付きgo/no-goタスクにおいて、タスクに関係のないマウスの体動からgo/no-go情報をデコードできることを偶然発見した。この体動様式は学習によって獲得されることと、強制的に体動を止めるとタスク学習が遅れることを突き止めた。1.の結果と合わせると、認知学習早期は前頭前野などの高次領域の可塑性により学習が進むが、学習が進んでくると他の低次脳領域や身体運動に学習が転移する(転移学習)ことが示唆された。 3.薬理学・遺伝学的精神疾患モデル:遅延付きgo/no-goタスクを修得したマウスに対して、NMDAレセプター阻害剤のMK-801急性投与およびphencyclidine (PCP)慢性投与を行った。MK-801急性投与によってタスク成績の低下が見られた一方、PCP慢性投与では成績低下が認められなかった。また、MK-801急性投与中の2光子イメージングにより、前頭前野神経細胞活動の低下とgo/no-go情報の低下が見られた。一方、統合失調症モデルマウスSetd1a hKOに遅延付きgo/no-goタスクを行わせたところ、正常同腹仔よりも早く学習し、成績も良いことが分かった。以上の結果から、NMDAレセプター演算は認知機能に重要であるが、慢性の抑制では代償機構が働くことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.大脳小脳大規模2光子イメージング:大脳皮質の大規模2光子イメージング手法を立ち上げることに成功した。さらに認知タスク試行中のマウスからの記録に成功し、予備的な結果を得た。一方で小脳イメージングおよび2軸2光子顕微鏡の利用についてはまだ行えていない状況である。 2.複数の認知タスクと転移学習:認知タスク中の体動によりタスク情報が表現されていることを発見した。これは認知学習における転移学習の重要性を支持する。A03班およびA04班との連携については詳細を詰めている段階である。 3.薬理学・遺伝学的精神疾患モデル:MK-801急性投与による認知機能の低下と、それに対応する前頭前野機能の低下を観察することに成功した。PCP慢性投与およびSetd1a hKOマウスの行動実験を行い、認知機能や学習速度の低下がないことが分かった。自閉症スペクトラム障害モデルマウスCHD8 hKOについては現在着手している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
1.大脳小脳大規模2光子イメージング:大脳皮質の大規模2光子イメージングを継続し、イメージングデータの詳細解析に着手する。特に、A01班およびA04班と連携し、大規模データ解析法の開発を目指す。小脳イメージングにも着手し、大脳との情報表現の共通点と違いを定量することを目標とする。 2.複数の認知タスクと転移学習:A03班の汎用学習モデルおよびA04班が構築するげっ歯類の身体モデルと連携して、脳―身体連関および転移学習の原理の解明と、その脳内での細胞レベルでの表象について解析を進める。 3.薬理学・遺伝学的精神疾患モデル:ビデオ記録・解析によるSetd1a hKOマウスの行動障害の定量と、このマウス系統で成績低下を起こすような新タスクの確立を目指す。CHD8 hKOにおいては予備実験で遅延付きgo/no-goタスクの学習が遅れることが分かっており、再現性を確認するとともに、このマウス系統の大規模2光子イメージングに着手することを目標とする。
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