研究領域 | 大規模計測・シミュレーションによる脳の全体性の理解 |
研究課題/領域番号 |
21H05136
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
堤 新一郎 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 副チームリーダー (20862676)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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キーワード | 大規模2光子イメージング / 前頭野 / 自閉症スペクトラム障害 / メルトダウン / 神経活動シークエンス / 脳の全体性の崩壊 |
研究実績の概要 |
1.大脳小脳大規模2光子イメージング:認知タスク中のマウス前頭野第2/3層神経細胞に対し、大規模2光子カルシウムイメージングを行った。その結果、成功トライアルの90%以上で生じ、認知タスク成績とその学習に関連する、神経活動シークエンスを発見した。神経活動シークエンスは認知学習によって20秒程度まで伸長し、これが上手く行かないマウスでは認知学習が進まないことが分かった。 2.複数の認知タスクと転移学習:遅延付きgo/no-goタスクにおいて、遅延時間が長くなると、体動によるgo/no-go情報のエンコーディング成績とタスク成績が相関するようになることが分かった。一方で、統合失調症モデルマウスSetd1a hKO系統では、この相関が見られないことから、転移学習が上手く行っていない可能性が考えられた。 3.薬理学・遺伝学的精神疾患モデル:自閉症スペクトラム障害モデルマウスCHD8 hKO系統において、認知学習が一旦成立するものの、突如として成績が低下し、その後は戻らない、自閉症児のメルトダウンに類似した行動を発見した。その他にも、タスク後に叫びだす行動や、タスク後半における瞳孔の異様な収縮など、患者さんの症状によく似た表現型をマウスモデルが示すことを発見した。CHD8 hKO系統では、体動によるgo/no-go情報のエンコーディング成績はむしろ高く、体動によって保持した情報を大脳で処理できなくなっている状態、すなわち全体性の崩壊が示唆された。また、一部のマウスでは、神経活動シークエンスのうち、報酬関連細胞の増加と、音刺激関連細胞の減少が見られた。他のマウスでは、神経活動シークエンスの崩壊、メルトダウン様行動、瞳孔径の収縮が連続して見られた。これらの結果は、神経活動シークエンスの異常が全体性の崩壊を引き起こし、メルトダウン様行動の引き金となっていることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.大脳小脳大規模2光子イメージング:前頭野FrA領域第2/3層神経細胞集団において、大規模2光子カルシウムイメージングでしか検出できない、神経活動シークエンスを発見した。さらに、神経活動シークエンスが認知タスクの成績と学習に関連することを発見した。 2.複数の認知タスクと転移学習:A04班と連携して、体動が認知学習に及ぼす影響について、モデリングによりメカニズムを解明していく目途が立った。 3.薬理学・遺伝学的精神疾患モデル:CHD8 hKO系統で、脳の全体性の崩壊を示すメルトダウン様行動と、その契機となりうる神経活動シークエンスの崩壊を観察することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
1.大脳小脳大規模2光子イメージング:前頭野FrA領域第2/3層神経細胞集団の大規模2光子カルシウムイメージングを継続し、神経活動シークエンスのデータを蓄積する。この大規模データの解析手法をA04班と連携して開発する。また、A03班と連携し、大規模全脳シミュレーションにおいて、同様の神経活動シークエンスが生じるか検討する。 2.複数の認知タスクと転移学習:A03班の汎用学習モデルおよびA04班が構築中のマウス筋骨格モデルと連携して、身体における情報処理が脳全体の学習や実行機能へどのように影響するのか、そのメカニズムを明らかにしていく。 3.薬理学・遺伝学的精神疾患モデル:CHD8 hKO系統の大規模2光子カルシウムイメージングを継続し、脳の全体性の崩壊を示す神経活動シークエンスの障害と、ヒト患者さんの症状に類似したメルトダウン様行動との関連について詳細に解析する。
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