研究領域 | ポストリソソーム生物学:分解の場から始まる高次生命現象の理解 |
研究課題/領域番号 |
21H05147
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
藤田 尚信 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (00506496)
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研究分担者 |
吉川 治孝 徳島大学, 先端酵素学研究所, 助教 (60709567)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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キーワード | リソソーム / オートファジー / 体液 / ショウジョウバエ / プロテオミクス |
研究実績の概要 |
細胞内の分解の場であるリソソームが生存・寿命を制御するシグナルを発信するという新しいコンセプトが生まれつつある。しかしながら、どの臓器からどのようなポストリソソームシグナルが発信されているのか、その実体は明らかにされていない。本研究では、ポストリソソームシグナルの起点となる臓器を同定すると共に、開放血管系を持つショウジョウバエの利点を生かした体液の比較マルチオミクス解析により、寿命延長につながる体液中のポストリソソームメディエーターの網羅的な同定を目指している。 体液中のポストリソソームメディエーターを同定するため、野生型、オートファジー不全系統、またリソソーム機能が低下した変異体より体液を回収し、体液の比較プロテオミクスを実施し、オートファジー・リソソーム機能の低下により存在量が有意に変動する一群のタンパク質を同定した。また、寿命延長につながるポストリソソームシグナルの起点となる臓器を探索するためのツールを整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
体液中のポストリソソームメディエーターを同定するために、幼虫期の野生型、オートファジー不全系統、またリソソーム機能が低下した変異体から体液を回収し、体液のプロテオミクスを実施した。得られたデータを比較解析することにより、オートファジー・リソソーム機能の低下により体液中の存在量が有意に変動する一群のタンパク質を同定することができた。また、体液のメタボロミクスに向けて、サンプルの調製方法を検討し、最適なプロトコールを見出すことができた。 寿命延長につながるポストリソソームシグナルの起点となる臓器の同定にも取り組んだ。TFEBはオートファジー・リソソーム系に働く一群の遺伝子の発現を制御するマスター転写因子である。TFEBの過剰発現は、幅広い生物種でリソソームを活性化し寿命延長効果を持つことが知られていることから、ショウジョウバエの各臓器にTFEBを過剰発現させることにより寿命延長効果がみられるか検討した。しかしながら、ショウジョウバエではTFEBの過剰発現による寿命延長効果は認められなかった。そこで、寿命延長につながるポストリソソームシグナルの起点となる臓器を探索するために新たなツールを整備した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、体液のプロテオミクスは幼虫だけでなく、成虫でも実施する。予備的な実験から、ショウジョウバエの腎細胞が体液タンパク質の存在量に大きな影響を与えていることが明らかになった。そこで、オートファジー・リソソーム経路の遺伝子と腎細胞の発生に関わる遺伝子の2重欠損体の解析にも取り組む。得られた体液プロファイルから、リソソーム機能の変動により影響を受ける体液成分を網羅的に同定する。主成分分析やt-SNE解析などの次元削減法により、得られた膨大なデータを可視化することで、リソソーム活性と体液プロファイルとの相関関係を明らかにする。さらに、オートファジー・リソソーム活性を変動させた際に体液のメタボロームに見られる影響も明らかにする。 ショウジョウバエに整備されている臓器特異的な遺伝子発現システムを利用して、オートファジー・リソソーム経路を介した寿命延長に中心的な役割を果たす臓器を探索する。これまでに得られた結果を踏まえて、寿命延長効果が明らかにされている既知の経路とオートファジー・リソソーム経路との遺伝学的な相互作用を明らかにする予定である。
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