研究領域 | 植物と微生物の共創による超個体の覚醒 |
研究課題/領域番号 |
21H05151
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
峯 彰 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80793819)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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キーワード | 気孔 / 細菌 / 機械学習 / 環境適応 / 植物微生物相互作用 / 超個体 |
研究実績の概要 |
葉の表面に存在する気孔の開閉制御を通じた環境応答は、植物の個の力として捉えられてきた。これに対して、本研究では、葉に棲息する細菌(葉圏細菌)が気孔開閉を操作するという独自の発見を基軸に、葉圏細菌による気孔開閉の分子機構を解明するとともに、葉圏細菌が気孔を介した植物の環境適応において果たす役割の究明を目指した。また、これらの研究計画を強力に推進するツールとして、非破壊的な気孔観察デバイスと画像処理による気孔開度の自動定量技術開発を進めた。 研究計画開始以前から保有していた葉圏細菌は海外由来であり、日本国内で応用展開するには様々な制約が生じると考えられた。そこで、野外に自生するシロイヌナズナの葉から細菌の単離を試みた。単離・培養できたコロニーからDNAを抽出し、16S rDNAの配列を決定し、細菌間の系統関係を整理した。その結果、合計で65系統の単離に成功した。 植物から葉を切り取ることなく非破壊的に気孔を観察可能な装置の開発を進めた。およそ1~3umのシロイヌナズナの気孔が観察可能なレンズとCMOSセンサー、光源を備えた気孔観察装置を開発した。この装置は、ポットで育てたシロイヌナズナの葉を直接挟み込むことで気孔を観察することが可能である。また、その寸法は5 cm x 20 cm x 6 cm (幅 x 奥行 x 高さ)、重量は310gであり、持ち運び可能な仕様になっている。他方、シロイヌナズナの気孔開度を自動測定するための画像解析アルゴリズムの開発も進めた。シロイヌナズナ葉の顕微鏡画像を教師データとして、気孔検出と気孔領域分割のための深層学習モデルを学習させた。このアルゴリズムは、顕微鏡画像から気孔開度を正確に推定することが可能であった。しかし、今回開発した気孔観察装置で取得した画像を入力とした場合の気孔開閉の判定は十分とは言えなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の大きな目標は、国内に自生する植物の葉圏細菌コレクションを構築することであった。今回、シロイヌナズナ葉から単離した多様な系統分類群を含む65系統からなるコレクションを構築できた。このコレクションは、気孔と多様な葉圏細菌の相互作用の全体像と分子機構を解明するための研究基盤になると考えている。また、植物から葉を切り取ることなく非破壊的に気孔を観察可能な装置の開発に成功した。気孔開度を測定する従来法は顕微鏡を用いる必要があり、サンプル調製の過程で葉を切り取り、表皮を剥ぐ必要があった。本研究で開発した気孔観察装置を用いれば、これらの煩雑な作業は必要ない。また、従来法とは異なり、植物から葉を切り取ることなく気孔観察が可能なので、個体における気孔応答を評価できる。本気孔観察装置は、本研究の発展に貢献するだけでなく、気孔を対象とする研究全般に対する波及効果があると期待される。気孔開度の自動測定アルゴリズムに関しては、気孔観察装置で撮影した画像に対応させるためのファインチューニングが必要であるが、この課題は、気孔観察装置で撮影した画像でモデルを再学習させることで達成できると考えている。以上より、本研究は順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、今回構築したコレクションの葉圏細菌が気孔閉鎖や気孔開口を誘導するかどうかを明らかにする。気孔開閉能を有する細菌系統については、ゲノム配列決定・遺伝子アノテーションを進めるとともに、比較ゲノム解析やトランスポゾン変異体のスクリーニングにより、気孔開閉能に関わる遺伝子を探索する。気孔開度の自動測定アルゴリズムのファインチューニングに向けて、気孔観察装置を用いてシロイヌナズナ葉の画像を複数取得し、それらを教師データとして再学習させ、気孔観察装置で撮影した画像の気孔開度推定が可能なモデルを構築する。
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