これまで行ってきたクライオ電子顕微鏡解析により、予備的にヌクレオソームと結合するコヒーシン複合体を観察することができたが、分解能が不十分であった。そのため、最終年度では、電子顕微鏡像自体の解像度を上げるために、ATP非加水分解アナログを用いて動きを止めコヒーシンとヌクレオソームの複合体についても大量調製を行い、その試料についてcryoEMデータセットを取得した。また、出芽酵母の転写が活発な遺伝子では、コヒーシンがRNAポリメラーゼII (RNAPII)に押されて、遺伝子上を移動する様子が確認されているが、その機能は分かっていない。そのため、コヒーシン複合体存在下でRNAPIIをヌクレオソームの任意の位置で止めた試料も作成し、cryoEMデータセットを取得した。今後は、それぞれの複合体の構造解析を行いたいと考えている。加えて、これまで実施してきた合成生物学との融合研究では、蛍光標識したヌクレオソームを人工細胞に包埋することに成功していた。しかし、この人工細胞についてクライオ電子顕微鏡による高分解能観察を行ったところ、大きなリポソームのほとんどが、試料凍結のステップで壊れてしまうことが分かり、包埋されたタンパク質粒子を観察することができなかった。この問題を解決するために、最終年度では、クライオ電子顕微鏡観察に特化した人工細胞の作成条件の検討を行った。その結果、脂質の組成を変更し、Mini-Extruder を使用してリポソームのサイズを最適化することで、クライオ電子顕微鏡でによって人工細胞内の粒子を観察できる方法を構築した。
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