研究領域 | メガダルトン生命機能深化ダイナミクス |
研究課題/領域番号 |
21H05156
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
車 兪徹 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭研究開発プログラム), 主任研究員 (40508420)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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キーワード | 合成生物学 / 人工細胞 / 膜タンパク質 / 脂質膜 / 無細胞系 |
研究実績の概要 |
人工細胞は脂質膜小胞の内部に分子と遺伝子を内包し、細胞のような振る舞いを再現する研究である。生命システムの維持に必要な機能と分子をボトムアップ的に理解するために、また初期地球環境中に誕生した原始細胞の様相を考察する上で意味がある。これまでにタンパク質合成やエネルギー生産など、基本的な細胞機能を再構築し脂質膜内部で稼働させる試みが行われてきた。このような技術を利用して領域内での共同研究を進めている。A02班とは、SecDFとSecYとSecAの遺伝子を結合させた、SecDFYAを無細胞タンパク質合成系内により合成を試みた。その結果、分子量200kDaに及ぶ大きなタンパク質であったが、SDS-PAGEにより合成産物が確認できた。しかしリポソーム存在下で合成をおこなったところ、リポソーム濃度の情報に伴いタンパク質が遠心処理後の沈殿画分に現れた。そのため、合成されたSecDFYAはリポソーム膜には局在していないと思われる結果が得られた。一方、A01班との共同研究では、ヒト核膜内膜タンパク質の人工細胞内合成を試みた。最初に無細胞系でLaminA、Emarin、BAFの合成確認をおこなったところ、それぞれのタンパク質の合成が観察された。しかし合成後の可用性は低く、50%を下回り、BAFにおいてはほぼ全て不溶化画分に回収された。その後2種の組み合わせで共合成したところ、BAFと一緒に合成した時のみLaminAの可溶化率がほぼ100%となった。しかし、3種全て共合成した場合は、LaminAの可溶化率が50%以下に戻ってしまった。今後は巨大膜小胞内部での合成と局在を観察する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
試験管内リン脂質合成系の構築と、合成産物のLCMSによる定量解析の手法が確立されつつある。現在再現性よく、100-150uMのホスファチジン酸を反応開始後30分ほどで合成できることを確認しているさらに基質やエネルギーを追加することで、300uM以上のリン脂質合成を確認している。本系を基盤とすることで自己成長型の人工細胞が構築できると期待できるだけではなく、ホスファチジン酸以外のリン脂質についても、合成するリン脂質合成酵素の遺伝子を加えることで、簡単に試験管内で合成することが可能だと予想される。A01班との領域内共同研究においても、良好な実験結果が得られているヒト核膜内環境の人工系での再現化はこれまでに例がないため。そのため本研究で核膜内膜周辺の環境が人工細胞系で再現できた場合、ゲノム研究の基盤技術の一つとして利用されることが予想される。そのため、現在までの進捗状況は、おおむね順調に発展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
試験管内リン脂質合成系の合成量の増加を図る。これまでに反応中の基質やエネルギー分子の濃度の推移をLCMSによりトレースしてきた。その結果ATPやNADPHの枯渇以外に反応律速の原因となっているものがあると示唆されている。そのため、自律的にATPやNADPHなどを供給できるよう、系をさらに進化させることを試み、これによりリン脂質合成量の増加を図る。合成量の増加した合成系を脂質膜内部で稼働させ、膜の形状変化を観察する。 A01班との共同研究は、核膜内膜タンパク質を蛍光タンパク質とフュージョンさせたものを人工細胞内で合成し、その局在を観察する。またその際に2種3種での共合成を行い、それぞれのタンパク質による影響を観察する。BAFはDNA結合型タンパク質と知られているため、短鎖のDNA存在下での挙動も観察する。
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