計画研究
細胞内の生命現象を理解するためには、各現象の過程で形成されるタンパク質複合体の構造・ダイナミクスを調べることが重要であり、クライオ電子顕微鏡や高速原子間力顕微鏡を用いることで可能になってきた。しかしながら、構造解析実験や生化学実験データには、分子のダイナミクス、構造多型、ノイズ、エラーなどの様々な情報が含まれる。メガダルトン級タンパク質複合体を対象とする場合、実験データから分子機構を解明することは従来よりも困難となり、構造モデリング時にノイズやエラーを自動的に除外するような工夫が必要である。本研究課題では、ベイズ推定を介して実験データを分子動力学 (MD) 計算に取り込むことを目指しており、一昨年度、および前年度において、ベイズ推定に基づくタンパク質立体構造予測法の1つである MELD法を分子動力学計算プログラム GENESIS に実装した。本年度は、このような実験データのうち、クロスリンク質量分析データを利用することを目的として、クロスリンク質量分析実験データのエラー率を正確に把握するために、クロスリンカーとして比較的よく用いられる DSS(disuccinimidyl suberate) に Lys を結合させた化合物の水中でのMD計算を行い、そのクロスリンカー距離を見積もった。200 ns のMD計算中、DSS は比較的大きく揺らぎ、Lys の Cα原子間距離は最大 24.8 Åまで伸びることがわかった。また、この値を参照として実際の実験データを解析し、結晶構造と比較したところ、実験データには70%程度のエラーが含まれていることもわかった。今後はこのようなエラー率をベイズ推定の入力情報として実際の立体構造予測に応用できると期待している。
令和5年度が最終年度であるため、記入しない。
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J. Comput. Chem.
巻: 45 ページ: 498-505
10.1002/jcc.27260
PLOS Biology
巻: 22 ページ: e3002601
10.1371/journal.pbio.3002601