研究領域 | あいまい環境に対峙する脳・生命体の情報獲得戦略の解明 |
研究課題/領域番号 |
21H05168
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小坂田 文隆 名古屋大学, 創薬科学研究科, 准教授 (60455334)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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キーワード | 予測符号化 / 自由エネルギー原理 / Granger causality / 予測誤差 / 階層性 / 内部モデル / ベイズ推定 / 知覚 |
研究実績の概要 |
ヒトなどの動物は、感覚情報や過去の経験を用いて環境の状態を推定し、外界環境に能動的かつ柔軟に適応する。我々は真の外界環境を知らず、脳が網膜などの感覚器からの感覚入力を利用して外界の状態を推定している。脳は入力される刺激を予測する内部モデルを構成し、それによる予測と実際に入力された感覚信号を比較し、両者のずれである予測誤差の計算に基づいて、知覚を創発する。この考えは予測符号化理論にて定式化されているが、脳内でどのように実装されているかは明らかになっていない。そこで、我々は視覚運動予測誤差に着目し、予測符号化にて仮定されている階層的な情報処理の脳内実装について検証した。視覚・運動予測誤差を表現する脳領域を大域的に探索するために、virtual reality環境下でマウス背側大脳皮質から広域Ca2+イメージングを行った。血液脳関門通過型カプシドのPHP.eBを用いたアデノ随伴ウイルスベクターにより、大脳皮質全域の興奮性ニューロンにカルシウム感受性緑色蛍光タンパク質であるjGCaMP7fを導入した。視覚と運動のミスマッチを提示直後に初期視覚野や背側高次視覚野の複数の領野などが強く活動することを見出した。大脳皮質の領域間相互作用を相関解析およびGranger causality解析により評価したところ、予測誤差情報が方向性を持って伝播していることが明らかになった。さらに、高次領域へと投射する低次領域の細胞が予測誤差情報を伝播しているかを検証するために、2光子顕微鏡イメージングと逆行性感染性ウイルスベクターを用いて、視覚運動予測誤差に対する応答を細胞レベルで評価した。その結果、逆行性感染性した投射ニューロンは、視覚運動予測誤差に応答することが明らかになった。以上より、予測誤差情報は、低次領域から高次領域へと投射する興奮性ニューロンにより、大脳皮質領域の階層性に従って伝播されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
独自に構築した実験系を用いて、視覚運動ミスマッチに対する応答を見出し、階層性の観点から解析を進めることができた。以上より、プロジェクトは順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は得られたデータを基に、予測信号と感覚信号の差を計算する細胞種に関する研究を行い、同時に、領域内連携を通じて計算論的手法を導入し数理モデルの構築に着手する。
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