計画研究
笠井、金原は、個体の精神病理に対して、世界との相互作用性について検討を進めた。具体的には、A02班との連携により、東京の思春期の若者において、親からは精神病理が低く見積もられているが、本人は苦悩が強い、自覚ー他覚ディスクレパンシー群において、自傷や希死念慮が強く、援助希求をしない傾向があることを明らかにした(Lancet Regional Health Western Pacific, 2024;プレスリリース)。また、思春期精神病理が縦断的に強まっていく背景に前部帯状回グルタミン酸神経伝達の変化が存在すること、またこの変化はいじめ被害群においてみられ、援助希求態度があると可変的であることを明らかにした(Mol Psychiatry, 2024;プレスリリース)。人類学班は今年も精力的に研究を継続する傍ら、雑誌論文5(うち1英語)、13の国際学会等発表(うち7招聘講演)、17の国内学会等発表(うち8招聘講演)、図書出版3を行った。東畑は『ふつうの相談』を刊行、櫛原は『中央公論』『社会学評論』に論文を発表、狩野は『精神看護』に、北中は『講座精神疾患の臨床:神経認知障害群』に論考を寄せた。シカゴ大共同開催でアジアの医療社会科学研究の若手育成ワークショップを行った。社会学班において、澁谷はマイノリティの中の多様性と相互の関係に注意を向け、『コーダ 私たちの多様な語り――聞こえない親と聞こえる子どもとまわりの人々』を出版した。長谷川は査読論文「ヤングケアラーの離家」をまとめ、『福祉社会学研究』20号に掲載された。滝島は『ASD・知的障害のある人の包括支援』に家族支援に関する論文を寄せ、『生活経済政策』321号に「きょうだい児が担うケアをめぐる現状と課題」を載せた。
1: 当初の計画以上に進展している
個体と世界の相互作用について、思春期精神病理の自覚と他覚の乖離がメンタルヘルス介入上重要であることや、思春期精神病理の縦断的変化の背景にある脳科学的変化が社会環境要因や本人の心理的態度により可変的であることを明らかにしたことは、従来の精神医学を社会モデル的に転回した画期的な成果である。六つの軸の研究は順調に進行中。①脳神経的障害(認知症・自閉症)に関する調査を継続し、ハーバード大学、プリンストン大学での招聘講演、米国人類学会等等で発表。②若者のメンタルヘルス国際比較の成果を米国心理人類学会、多文化間精神医学会で報告。③当事者研究の国際比較特集号を北中がAssociate Editorを務めるTranscultural Psychiatryで組んだ。④若手育成の国際会議。⑤英語の医療人類学の教科書編集。⑥Lancet誌での社会医学特集の選考・編集の仕事に従事。澁谷も2023年度はこれまでの調査や分析の成果が形となり、これらを合わせると、人類学班、社会学班とも当初計画を上回る成果を上げていると評価できる。
笠井、金原は、個体-世界相互作用における、トラウマが精神病理や脳機能に与える影響の時代変化を検討する。その際に、従来の心理学、生物学的手法に加えて、自然言語処理の方法論を洗練させる。人類学班は、今年度は五つの軸での研究を進める。①北中は認知症の人類学的調査を継続しつつ、本執筆を開始、狩野は自閉症の人類学の博論・論文を執筆する。②若者のメンタルヘルス国際比較研究をさらに展開・合同会議開催し各メンバーの執筆を目指す。③Transcultural Psychiatryの特集号を完成。④医療人類学の教科書Mapping Medical Anthropology刊行に向けて共同編集を行う。⑤Lancetでの社会科学特集編集の仕事とともに、夏にシカゴ大でのワークショップに執筆陣と参加し投稿を目指す。澁谷は、小学生コーダと親のためのワークショップを開催し、ろうの親が大学生コーダや他の親子の話を聞いて自分の家族の将来をイメージできる場を作る。長谷川は、ヤングアダルトケアラーとその家族の関わりが、収入や社会的立場を得ること、生殖家族での役割の取得、実家と異なる居住空間の確保などを通して、いかに変わるのかを分析する。滝島は、学齢期のきょうだいにとって、リスクとなる事柄や支えとなる要素などを検討する。
すべて 2024 2023 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (21件) (うち国際共著 6件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (32件) (うち国際学会 13件、 招待講演 16件) 図書 (6件) 備考 (5件) 学会・シンポジウム開催 (2件)
社会学評論
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精神看護
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福祉社会学研究
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みんなのねがい
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